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2016年8月4日

「失語症古典論」に関する研究

栗﨑 由貴子

言語聴覚学科 講師/言語聴覚士

■趣味:日帰り温泉めぐり
■愛読書:喜嶋先生の静かな世界
■座右の銘:哲学とは己れ自身の端緒のつねに更新されてゆく経験である

研究を始めたきっかけ

「ことばを失ってしまった人を支えるためにはどうすればいいのか?」に悩んでいた私に、大学院の恩師がこう言いました。「われわれのような者にできることは、せいぜい、先人の為した素晴らしい業績を正しく後世に伝えていくことくらいですよ」と。私は、この恩師の言葉で目が覚めました。そこで私は19世紀の書籍を紐解き、その中に輝いている21世紀の現代にも通用する多くの知識を活用して、医療を発展させ、未来に寄与しようと考えました。私たちが生きている現代は歴史に支えられています。私自身が、過去の素晴らしい知識を未来へ伝える「知の中継地点」になろうと決心しました。

 

研究内容

言語や文化、歴史といった人間が生きる世界を現象学的に解明しようとした20世紀フランスの哲学者メルロ=ポンティの思想研究をしています。私は特に、メルロ=ポンティの失語症の記述から、彼が言語についてどのような解釈を導きだそうとしたのかについて調べています。失語症は、脳のアクシデントによってある日突然生じます。果たしてことばを失ってしまった人の世界はどのように変わってしまうのでしょうか。ことばを使うことができない日々とはどのような日常なのでしょうか。このような視点から「ことばとは何か?」という答えのでない問いに挑むこと、これが私の研究課題です。

 

今後の展望

この研究を通して私が目指しているのは、失語症者一人ひとりが生きている世界を描き出すことです。私たちは、自分の生活している世界は間違いなくここにある!と当たり前のように暮らしていますが、病気や事故、自然災害といったアクシデントが起きた途端、その生活は一変します。それは予想もしていなかった大きな苦しみを伴う経験です。ことばは、その苦しみを救うためにどのように働くのでしょうか。ことばの力によって、失語症者はどうやってその苦しみを乗り越えればいいのでしょうか。失語症者の生活世界を見つめることを通して、困難に立ち向っている一人ひとりを少しでも楽にすることができれば・・・と考えています。

 

高校生へのメッセージ

「誰かの役にたちたい」という想いに理系や文系といった区分は関係ありません。心の中に湧きあがってくる優しい気持ちこそが医療職の学びの原点です。「ことばの力を信じたい」という方は、ぜひ、9月のオープンキャンパスで言語聴覚障害学の奥深さに触れてください。