専務の言葉を胸に秘め
大学卒業後、私は証券会社で働いていましたが、営業中に知り合った顧客から会社設立の誘いを受けて転職しました。その後、27歳の時に作業療法士になろうと決意し、その会社を辞める意思を伝えました。「病院で一人ひとりの患者様のために努力するのも素晴らしいことだが、もっと世の中の多くの人々の生活を一度に変えるような大きな仕事をする覚悟があるなら認めよう」と、銀座の酒場で涙してくれた専務の言葉が、研究を始めたばかりの私の背中を押してくれた気がします。
脳に刺激を与えながら運動を行う
患者様に苦痛を与える事なく、磁気や電気によって頭皮上から脳神経細胞に働きかける治療方法を、「非侵襲的脳刺激」といいます。「非侵襲的脳刺激」は、脳卒中やパーキンソン病などにより、日常生活が困難になる障害を持つ患者様が行うリハビリテーションの効果をさらに高める可能性があると期待されています。現在私は、健常者を対象として最適な「非侵襲的脳刺激」の方法を確立するための基礎的な研究を行っています。
再生医療の効果の高まりに期待
現在、世界中の研究者達が進めている再生医療により、脳や脊髄の神経に病気を持つ患者様の治療方法が、劇的に進歩する可能性があります。しかし、“新しく移植された中枢神経がうまく筋肉を動かすことができるようになる”、または“皮膚からの感覚情報を正確にキャッチできるようになる”には、患者様が反復訓練を強いられることに変わりないと思います。「非侵襲的脳刺激」は、再生医療の効果を高める補助手段としても発展する可能性を秘めているかも知れません。
いい仕事に巡り逢えたのかナ
私は30歳で作業療法士として臨床に出て、35歳で大学院修士課程に進み、博士の学位を43歳で取得しました。研究者としては、かなりのんびりと道を歩んでいます。そんな私にも、最近は国内外から研究発表の機会や論文審査のお話がぽつぽつと舞い込むようになりました。研究に携わリ、真実をギュッと握りしめる行為そのものが私にとって報酬なのですが、結果として他の研究者にも関心を持ってもらえた時は、「いい仕事に巡り逢えたのかナ」と思います。そして、「あの専務も喜んでくれるだろうか」とも・・・
高校生へメッセージ
9月のオープンキャンパスでは、我々が現在取り組んでいる世界最先端の研究で使用する実験機器を準備してお待ちしています。ここでの出会いが、皆さんが研究への道を志すキッカケになれば、とても嬉しく思います。