人生を決定づけた出会い
ヒトの脳の記憶、言語、思考、判断などの機能をまとめて認知機能(または高次機能)といいます。私が認知機能の障害を研究し続けているのは、医師になった最初の2年間で、脳損傷患者さんたちの認知機能障害の不思議さをたくさん経験したからです。医学部卒業後、私はある脳卒中センターで初期研修医を始めました。そこで担当した患者さんたちの認知機能障害の不思議さ、それが自分の人生を決定づけました。
認知機能障害の研究
私は様々な認知機能の障害を研究していますが、ここでは虚再生(false recall)の研究を紹介しましょう。10個程度の単語のリストを呈示して、後で再生する、つまり思い出して言ってもらう記憶テストがあります(単語列再生課題)。その際に、リストにない単語が再生されてしまう反応(虚再生)が一部の患者さんでみられます。リストの単語を再生できるのは記憶していたから、再生できないのは記憶できなかったからと説明できますが、リストにない単語をあるように言うのはなぜなのでしょうか。アルツハイマー病の患者さんにおける虚再生の研究から、いくつかの事実が分かりました。そのうちの一つは、虚再生のある患者さんは記憶障害そのものがむしろ軽いということでした。それはなぜ? オープンキャンパスの模擬講義で私に質問してみてください。
患者さんの味方を増やす
私がなぜ認知機能障害の研究を続けているのか、その理由の一つは、患者さんの「味方」を増やすことができるからです。患者さんの認知機能障害を理解して「なるほど」と思ってくれた人は、その患者さんの味方になってくれます。そんな人が少しでも増えてくれることが私の願いです。
高校生へメッセージ
言語聴覚士は医療系専門職でありながら、文系のセンスも活きる職種です。理系、文系を問わず、脳のおもしろさに魅かれる皆さんの入学を歓迎します。