月経周期により全身関節弛緩性と足関節靭帯弛緩性が変化することを明らかにしました! - 新潟医療福祉大学 研究力

新潟医療福祉大学 研究力

2021.03.09

研究者 山崎 朋美

月経周期により全身関節弛緩性と足関節靭帯弛緩性が変化することを明らかにしました!

本学は、令和2年度スポーツ庁委託事業「女性アスリートの育成・支援プロジェクト(女性アスリートの戦略的強化に向けた調査研究)」に選定され(http://www.nuhw.ac.jp/topics/public/detail/insertNumber/2913/)、女性アスリートの活躍に向けた支援や、ジュニア層を含む女性アスリートが健康でハイパフォーマンススポーツを継続できる環境を整備することを目的として研究を進めています。(選定テーマ:「月経周期におけるコンディション不良に対する運動器機能と中枢神経機能からアプローチする新たなトレーニング法・傷害予防法の開発」)

  山崎朋美さん(理学療法学科16期生、松田病院勤務)と江玉睦明教授(理学療法学科)らの研究グループでは、スポーツ傷害の中でも頻発する足関節捻挫(足関節外側靭帯損傷)に着目し,月経周期との関係性について研究を行ってきました。今回の実験では、月経周期の排卵期において、全身関節弛緩性と足関節靭帯弛緩性が正の相関関係(全身関節弛緩性が高い人ほど足関節靭帯弛緩性も高い)があることを明らかにしました。

山崎 写真.jpg江玉 写真.jpg

研究成果のポイント

1.足関節捻挫は男性よりも女性に多く発生することや、月経周期により発生率が変化することが知られていますが、危険因子と考えられている足関節靭帯弛緩性(前距腓靭帯伸張率)や全身関節弛緩性が月経周期によって変化するか、またそれらの関係性は十分に明らかになっていませんでした。

2.足関節靭帯弛緩性(前距腓靭帯伸張率)は月経周期間で有意な変化は認めませんでした。全身関節弛緩性は、卵胞期と比較して、排卵期と黄体期で有意に高値を示しました。また、足関節靭帯弛緩性は、月経周期によって有意に変化しませんでした。しかし、全身関節弛緩性と足関節靭帯弛緩性は、排卵期において有意な正の相関関係を認めました。

3.本研究結果から,全身関節弛緩性が高い女性はエストロゲンの影響に敏感であり,排卵期に前距腓靭帯の長さが変化する(足関節が不安定になる)可能性があること示唆されました。

4.今後は、足関節外側靭帯損傷の危険因子に対する月経周期の影響をより詳細に調べるために、アスリートを対象に慢性足関節不安定症の有無なども考慮して研究を進めていく必要があります。

研究の背景

足関節捻挫(足関節外側靭帯損傷)は、代表的なスポーツ傷害の1つで、発生率は男性と比較して女性で高いことや、月経周期により発生率が変化することが知られています。この性差の要因として、女性ホルモンの変動、すなわち月経周期が関与していると考えられています。また、足関節靭帯弛緩性(前距腓靭帯伸張率)や、全身的な関節の柔らかさ(全身関節弛緩性)の増加が足関節捻挫の発生に繋がることが知られています。しかし、足関節靭帯弛緩性や全身関節弛緩性が月経周期でどのような変化を示すのか、またそれらの関係性は十分に明らかになっていませんでした。そこで、私たちは、月経周期における足関節靭帯弛緩性と全身関節弛緩性の変化と、足関節靭帯弛緩性と全身関節弛緩性の関係性を調べました。

研究内容と成果

本研究では、女性被験者の月経周期を把握して、月経期・卵胞期・排卵期・黄体期の4期に実験を行いました。まず、足関節靭帯(前距腓靭帯)の弛緩性を調べるために、足関節ストレス装置を用いて足関節底屈角度30°位で120Nのストレス負荷で足関節に前方引き出しストレスを加えました(図1)。そして超音波画像診断装置を用いて外果-距骨間離解距離を計測し,前距腓靭帯伸張率(足関節靭帯弛緩性)を算出しました(図2)。全身関節弛緩性は、東大式全身関節弛緩性テストを用いて評価しました(図3)。その結果、全身関節弛緩性は、卵胞期と比較して、排卵期と黄体期で有意に高値を示しました。また、足関節靭帯弛緩性は、月経周期によって有意に変化しませんでした。しかし、全身関節弛緩性と足関節靭帯弛緩性は、排卵期において有意な正の相関関係を認めました(図4)。

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山崎さんからのコメント

本研究結果から、排卵期において全身関節弛緩性が高値を示す女性では、足関節靭帯弛緩性が増加することが明らかとなりました。私たちの先行研究では、排卵期において、膝関節の過伸展が10度以上ある、すなわち反張膝を有する女性のみにおいて膝関節弛緩性が増加するという結果も得られています。従って、排卵期には膝関節や足関節の弛緩性が増加し(関節が不安定になる)、スポーツ傷害のリスクが高まる可能性が示唆されました。特にアスリートでは、排卵期に激しいトレーニングは控えることが傷害予防には重要であると考えます。今後は、少しでも女性アスリートが怪我無く競技に専念できるように研究や現場活動に頑張りたいと思います。

原著論文情報

Yamazaki T, Maruyama S, Sato Y, Suzuki Y, Shimizu S, Kaneko F, Ikezu M, Matsuzawa K, Edama E. A preliminary study exploring the change in ankle joint laxity and general joint laxity during the menstrual cycle in cis women. Journal of Foot and Ankle Research. [in press]

山崎 朋美さん(理学療法学科16期生、松田病院勤務)
江玉 睦明教授(理学療法学科)