脳卒中後の病的な痛みに関連する大脳皮質の縮小信号を検出! - 新潟医療福祉大学 研究力

新潟医療福祉大学 研究力

2021.05.12

研究者 長坂 和明

脳卒中後の病的な痛みに関連する大脳皮質の縮小信号を検出!

長坂和明助教(理学療法学科・神経生理Lab・運動機能医科学研究所)の研究論文が国際誌「Cerebral Cortex」に掲載されました.

脳卒中のあとに生じる病的な痛みについてそのメカニズムを解明するための研究となっております.詳しくは以下を御覧ください.

研究概要

脳卒中の後遺症の一つである病的な痛みのメカニズムは良く分かっていません.これまで私たちは当該病態をよく再現するマカクサルモデルを確立し(Nagasaka et al., Scientific Reports -2017-),病的痛みに関連する二次体性感覚野および後部島皮質の異常な脳活動上昇を報告してきました(Nagasaka et al., Experimental Neurology -2020-).本研究ではこのモデル動物を対象に経時的に撮像した構造MRI画像を使ってVoxel-based morphometry(VBM)法を行うことで,局所脳容積の時間的変化を調べました.さらに,VBMで得られた容積変化の背景にある細胞レベルの変化についても組織学的手法を用いて調べました.その結果,痛みが生じている時期には後部島皮質の容積は脳卒中前と比べ約10%も減少していることを発見しました.また,後部島皮質および隣接する二次体性感覚野では興奮・抑制性シナプス(神経細胞がもつ微小構造物)が減少していることを突き止めました.

長坂先生からコメント

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脳卒中後の痛みは耐え難い痛みであり,それに苦しんでいる患者さんは多いです.本研究のVBMで明らかになった後部島皮質と二次体性感覚野の灰白質容積減少は,実際の患者さんでも確認されている現象です.動物モデルが患者さんと同様の神経系の変化を再現できているとすると,このモデルに生じている細胞レベルの変化を特定していくことは脳卒中後疼痛のメカニズム解明だけでなく薬剤治療やリハビリなどの治療法開発の一助になると思われます.

研究成果のポイント

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・脳卒中後疼痛に関連する島皮質の容積縮小をVBM法を用いて検出することに成功(図①;脳卒中前と比較して脳卒中後の痛みが生じた時に後部島皮質では容積縮小を示す信号が検出された).

・同定された容積縮小領域では神経細胞のシナプス減少が生じていることを証明(図②;モデル動物の後部島皮質では抑制性シナプス(黒色で可視化)が減少している).

 

  

原著論文情報

Kazuaki Nagasaka, Kiyotaka Nemoto, Ichiro Takashima, Keiji Matsuda, Noriyuki Higo. Structural plastic changes of cortical gray matter revealed by voxel-based morphometry and histological analyses in a monkey model of central post-stroke pain. Cerebral Cortex (2021), doi: 10.1093/cercor/bhab098

リハビリテーション学部 理学療法学科
助教 長坂 和明(ながさか かずあき)

物質としての脳がなぜ運動や感覚を生じさせるのかを多角的にアプローチして調べています。具体的には、ヒトを対象として、運動または考えている時の脳の活動を計測しています。さらに動物の脳を対象に、より詳細な細胞レベルの活動を記録しています。これら計測データを相互に結びつけて、脳の仕組みを明らかにします。これらは脳卒中後の後遺症に苦しむ患者さんのリハビリテーションに役立ちます。