【健康スポーツ学科】肩甲骨の異常運動を有するジュニアスイマーの水泳ストローク動作の特徴を解明! - 新潟医療福祉大学 研究力

新潟医療福祉大学 研究力

2024.03.06

研究者 三瀬 貴生

【健康スポーツ学科】肩甲骨の異常運動を有するジュニアスイマーの水泳ストローク動作の特徴を解明!

新潟医療福祉大学健康スポーツ学科の三瀬貴生講師らの研究グループは、成長期の競泳選手を対象にストローク(水を搔く)動作中の肩甲骨周囲筋群の筋活動及び肩甲骨の運動を解析し、陸上で肩甲骨異常運動が観察された選手は水泳のストローク動作中に肩関節障害の発生リスクとなりうる肩甲骨運動が生じていたことを明らかにしました。
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水泳は肩関節障害が最も多く、肩関節障害の発生要因の一つに肩甲骨の異常運動があると考えられています。陸上で図1のような肩甲骨の運動が観察された場合、肩甲骨周囲筋群に機能的な問題があるといわれており、本研究ではこのような簡便な評価方法を用いて、成長期競泳選手の肩甲骨運動を評価しました。陸上で肩甲骨異常運動を有する選手は、ストローク動作中の肩甲骨運動にも同様の問題が生じていることが明らかとなり、競泳選手の肩関節障害が発生するメカニズムの解明やスポーツ障害を予防するためのスクリーニングへの応用が期待されます。

本研究成果はJSPS科研費20K19523の助成を受けて実施され、2024221日に国際誌「Sports Biomechanics」に公開されました。

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1. 肩甲骨異常運動の例(赤印)

上肢の挙上・降下運動をおこなった際に、肩甲骨の運動を背部から観察し、肩甲骨の浮き上がり(赤印)が生じている場合、肩甲骨運動に関与する筋に機能的問題があると評価される。

研究成果のポイント
1.過去に報告がほとんどない成長期の競泳選手を対象に競泳特有のストローク動作中の筋活動と肩甲骨運動を解析した点。
2.陸上で肩甲骨異常運動を有する成長期競泳選手は水泳のストローク動作中に肩関節障害の発生につながるような肩甲骨運動が生じていたことを明らかにした点。
3.肩甲骨運動の評価方法が陸上で実施可能で簡便なツールのため、肩関節障害のリスクと有する選手の早期発見・早期予防に応用できる点。

【研究概要】
競泳におけるスポーツ外傷・障害では、肩関節障害が最も発生頻度が高いと報告されています。これは成長期であっても成人と同じ傾向にあります。肩関節障害が発生する要因の一つに、肩甲骨周囲筋群の機能不全に伴う肩甲骨の異常運動(図1)が報告されています。競泳の競技特性は上肢の運動が中心となるため、健常な競泳選手であっても練習後には肩甲骨の異常運動が生じることが報告されています。肩甲骨の異常運動が生じているケースでは、肩関節内のスペースが狭小され、関節内でインピンジメント(衝突)が生じやすいと考えられています。したがって、肩甲骨の異常運動を有するスイマーは競泳特有のストローク動作中の肩甲骨運動に問題が生じている可能性が考えられます。しかしながら、これまでの研究では、陸上で上肢の挙上・降下運動中における肩甲骨運動と筋活動を解析したものがほとんどで、競技特有の動作中の筋活動と肩甲骨運動は明らかにされておりませんでした。加えて、成人を対象としたものが多く、成長期の選手を対象に検証されていませんでした。そこで本研究では、成長期競泳選手を対象に競泳のストローク動作中の肩甲骨運動と肩甲骨周囲筋群の筋活動を解析し、肩甲骨異常運動の有無による違いについて検証しました。

本研究の対象者は、新潟県内のスイミングスクールに所属するジュニアスイマー17名でした。実験試技はスイムベンチ(Swim Bench-01、株式会社ミツワ)を用いたストローク動作を実施し、ストローク動作中の肩甲骨の3次元運動と肩甲骨周囲筋群の筋活動を計測しました。事前に対象者の肩甲骨運動を観察し、異常運動の有無で2群に分け、ストローク動作中の肩甲骨運動と筋活動を比較しました。その結果、ストローク動作を開始した局面において、肩甲骨異常運動を有するグループでは肩甲骨の上方回旋角度が少なく、内旋角度が大きいことが示されました。加えて、この局面において上肢挙上角度にグループ間の差がなかったことから、ストローク動作において上肢は同じ様に運動していても、両グループ間で肩甲骨運動に違いが生じていたことが明らかとなりました(図23)。このような肩甲骨運動の特徴は肩関節において過剰なストレスが生じることが報告されているため、肩甲骨異常運動を有する成長期競泳選手はストローク動作中に肩関節障害に発展するリスクを有している可能性が考えられました。なお、肩甲骨周囲筋群の筋活動は両グループ間に差を示さなかったため、肩甲骨運動を変えた要因は筋の短縮など他の要因が考えられました。

本研究から成長期競泳選手における肩甲骨異常運動の有無によるストローク動作中の肩甲骨運動の違いが明らかとなり、異常運動を有する成長期競泳選手はストローク動作中に肩関節障害に発展するリスクを抱えている可能性が示されました。肩甲骨異常運動の有無を陸上で観察することで成長期競泳選手における肩関節障害リスクの早期発見・早期予防に貢献することが期待されます。

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2 肩甲骨異常運動の有無によるストローク動作開始局面における肩甲骨運動の違いのイメージ像

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3 ストローク動作中の肩甲骨運動の3次元解析結果

横軸の0%はストローク動作の開始、100%はストローク動作の終了を示す。縦軸は角度を示す。
オレンジ線は肩甲骨運動に異常ありグループの角度変化、ブルー線は異常なしグループの角度変化を示す。
ストローク動作の開始局面(グレーの範囲)においてオレンジ線はブルー線より数値が低いことが示されている。



■研究の詳細についてはこちら

Does scapular dysfunction alter scapular muscles activity and kinematics during swim stroke motion on adolescent swimmers?
Takao Mise*, Takeyasu Kurita, Shohei Kamakari, Hiroshi Akuzawa, Tomoki Oshikawa, Naoto Matsunaga & Koji Kaneoka
*は筆頭著者)
Sports Biomechanics. Published online (in press)
URL: https://doi.org/10.1080/14763141.2024.2315257



研究に関する問い合わせ先

新潟医療福祉大学 健康科学部 健康スポーツ学科
講師 三瀬 貴生(みせ たかお)
950-3198 新潟県新潟市北区島見町1398番地
E-mail: mise〇nuhw.ac.jp
〇を@に変えてください

【研究者情報】
健康科学部 健康スポーツ学科
講師 三瀬 貴生(みせ たかお)


スポーツは健康に良いというイメージがありますが、トレーニング方法や環境、身体の使い方によってはケガの発生という身体の健康を損なう危険性が潜んでいます。ケガの原因(危険因子)を明らかにし、その原因を解消するためのトレーニング方法など解決策を研究し、スポーツによるケガを少しでも減らせるような取り組みをおこなっています。