【義肢装具自立支援】慢性副鼻腔炎が認知症の画像診断に影響する可能性―脳の検査の見方に新たな視点― - 新潟医療福祉大学 研究力

新潟医療福祉大学 研究力

2026.03.27

研究者 金澤 雅人

【義肢装具自立支援】慢性副鼻腔炎が認知症の画像診断に影響する可能性―脳の検査の見方に新たな視点―

義肢装具自立支援学科・金澤雅人教授らの共同研究グループは、慢性副鼻腔炎が認知症の画像診断に与える影響について検討し、脳血流SPECT検査における所見を修飾する可能性を示唆しました。本研究成果は、国際誌「Frontiers in Neurology」に、2026年に掲載されました。

本研究は、新潟脳外科病院、新潟大学脳研究所、新潟リハビリテーション病院との共同研究により行われました。
金澤雅人1、2、3・畠山公大3・今村徹4・小林勉5
1:新潟脳外科病院脳神経内科
2:新潟医療福祉大学リハビリテーション学部
3:新潟大学脳研究所脳神経内科学分野・臨床機能脳神経学分野
4:新潟リハビリテーション病院神経内科
5:新潟脳神経外科病院脳神経外科

◆研究のポイント
• 慢性副鼻腔炎(CRS)を有する認知機能低下患者では、脳血流SPECT検査において後部帯状回(PCC)の血流低下がより強くみられる傾向を認めた。
• ただし、認知機能検査の成績自体に大きな差は認められなかった。
• 慢性副鼻腔炎は認知症の原因というよりも、画像診断結果を修飾する可能性がある。

◆研究の背景
認知症、とくにアルツハイマー病(AD)の診断では、脳血流SPECT(単一光子放射断層撮影)による脳の血流評価が広く行われています。アルツハイマー病では「後部帯状回(PCC)」や頭頂葉の血流低下が特徴的とされています。
一方、慢性副鼻腔炎(CRS)は鼻や副鼻腔の慢性的な炎症であり、高齢者ではMRI検査で偶然見つかることも少なくありません。近年、副鼻腔炎が全身炎症や神経免疫系に影響する可能性が指摘されていますが、認知症の画像診断との関連については十分に検討されていませんでした。

◆研究の内容
本研究では、認知機能低下を主訴として新潟脳外科病院外来を受診し、脳血流SPECT検査を受けた患者を対象に、MRIで慢性副鼻腔炎の有無を評価しました。
その結果:
• 慢性副鼻腔炎を有する患者では、SPECT検査における後部帯状回(PCC)の血流低下が、慢性副鼻腔炎のない患者よりも強い傾向を示しました。
• しかし、MMSEなどの認知機能検査の点数には有意な差は認められませんでした。
このことは、慢性副鼻腔炎が認知症そのものを引き起こしているというよりも、脳血流画像のパターンに影響を与えている可能性を示唆します。

なぜ重要なのか?
脳血流SPECTは、PET検査や髄液検査が利用できない医療機関でも広く行われている検査です。特に地域医療の現場では重要な役割を担っています。
今回の研究結果は、認知症診断において
• MRIで副鼻腔炎がみられる患者において、
• SPECTでアルツハイマー病に類似したPCC血流低下パターンを示すことが多い
認知症診断において、背景因子として副鼻腔炎の存在を考慮するとSPECTの意義が高いと考えられます。

嗅覚との関連
アルツハイマー病では早期から嗅覚障害がみられることが知られています。一方、慢性副鼻腔炎も嗅覚低下を引き起こします。鼻と脳は嗅神経を通じて解剖学的に直接つながっており、両者は独立した臓器ではなく、炎症や免疫反応が影響しうる経路が存在します。
本研究は、「鼻と脳は無関係ではない」という視点を臨床画像データから示した点に意義があります。慢性副鼻腔炎という身近な疾患が、脳機能画像のパターンに影響を及ぼす可能性を示したことは、耳鼻科領域と脳神経内科領域をつなぐ新たな学際的視点を提示するものです。

◆今後の展望
本研究は後ろ向き解析であり、対象者数も限られています。そのため、因果関係を結論づけるものではありません。
今後は:
• より大規模な前向き研究
• アミロイドPETなどのバイオマーカーを組み合わせた検討
• 副鼻腔炎治療が脳血流に与える影響の検証
などが必要です。
慢性副鼻腔炎は治療可能な疾患であり、もし脳機能評価に影響を与えるとすれば、診断精度向上や将来的な予防戦略にもつながる可能性があります。

◆研究者コメント
慢性副鼻腔炎はこれまで耳鼻科領域の疾患と考えられてきましたが、本研究は脳神経内科診療においても無視できない可能性を示しました。認知症診療における画像解釈の精度向上につながることを期待しています。

タイトル Chronic Rhinosinusitis and Posterior Cingulate Hypoperfusion on SPECT in Dementia Diagnosis
https://www.frontiersin.org/journals/neurology/articles/10.3389/fneur.2026.1777862/abstract

【研究者情報】
リハビリテーション学部 義肢装具自立支援学科
教授 金澤 雅人(かなざわ まさと)

脳血管障害(脳卒中)は,脳の血管がつまる⇒“脳梗塞”か,破れる⇒“脳出血”に大きくは分けられます.日本人の死因の第四位,寝たきりの原因では第一位の疾患です.単に脳血管が障害されるといっても,実はその病態は複雑であること,また,一度発症すると根治が難しいという固定観念から,学問的にも臨床的にもアプローチが難しい分野でした.

しかし,近年CT・MRIや超音波検査を中心とした急速な画像診断学の発達,新たな血栓溶解薬(tPA)の普及,脳血管内カテーテル治療により急性期治療は大きな変換点を迎えております.

私たちは主に,脳卒中の70%を占める脳梗塞の治療を目指した病態解明,治療応用の検討を進めております.以前は急性期の脳保護薬の開発を行っておりましたが,現在では慢性期の機能回復を目指した細胞療法の研究を行っております.いわば,脳の持つ可塑性の機序解明を脳血管障害の病態・治療法開発からアプローチしております.