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【作業療法学科・運動機能医科学研究所】桐本光教授らの研究論文が国際誌に掲載が決定しました。

作業療法学科 桐本光教授らの研究論文が英国科学雑誌Natureの姉妹誌『Scientific Reports』にオンライン上で公開されました(URL:www.nature.com/articles/srep34509)。

以下に研究概要を記載いたします。

【研究概要】
本研究では感覚を司る脳部位の上(頭皮上)に強力な磁石を15分間設置した結果、手首に与えた電気刺激に対する脳の応答が低下することを明らかにしました。本研究で用いた脳刺激方法は、経頭蓋静磁場刺激(Transcranial static magnetic stimulation: tSMS)と呼ばれており、まだまだ基礎研究段階ではありますが、脳卒中後に過剰に興奮し、機能回復を遅らせている脳部位の興奮性を適度に低下させることができる可能性が示されました。

【桐本光教授のコメント】
1990年代より、コイルに流した渦電流から発する磁気を利用した磁気刺激が、これに続いて2000年以降からは頭皮上に微弱な直流電流を与える直流電流刺激が、非侵襲的に脳を刺激する方法として発展してきました。これらの脳刺激法は、健常者の脳機能探索ツールとしてだけでなく、様々な中枢神経系疾患患者さんの治療にも使われ始めています。しかしながら、これらの脳刺激方法は高価な装置や高度な操作技術を必要とすること、更には被験者によっては痛痒感や不安感を感じる場合もあることが問題点として残ります。

2011年にOlivieloらが、一次運動野上に強力なネオジム磁石を10分間置くことにより、その興奮性が約25%低下したと報告して以来、このtSMSは、新たな非侵襲的脳刺激ツールとして注目されています。多くの脳卒中患者さんが経験する薬剤難治性慢性疼痛症候群は、痛みそのものに加えて、痛みによりリハビリテーションに取り組めないという問題を抱えています。現在、tSMSが痛覚刺激に対する脳の応答を変化させうるか否かを検討しているところです。また脳卒中では、損傷部位の活動性が低下するだけでなく、損傷してない部位が過剰に活動することも機能回復を阻害する原因となっています。このような過剰に興奮した脳部位の抑制効果についてもこれから検討していきたいと考えています。

【本研究成果のポイント】
図1 静磁場刺激に使用した磁石とその設置方法
http://www.nuhw.ac.jp/topics/news/20161004-1.pdf (PDF/39.1KB)
直径5 cm、最大吸着力88 kgfの強力なネオジム磁石を図1のように頭皮上に固定します。疑似刺激には磁石と同形状、同質量の非磁性ステンレスを使用します。被験者には、どちらも「ヒンヤリしたものが頭に当たっている」程度の感覚しか与えません。

図2 静磁場刺激前後における感覚誘発電位の変化
http://www.nuhw.ac.jp/topics/news/20161004-2.pdf (PDF/6.58KB)
末梢神経を電気刺激すると、これにより応答して生じる一次体性感覚野の興奮を記録したのが体性感覚誘発電位です。静磁場刺激前と比較して、刺激終了直後にN33と呼ばれる成分の振幅が顕著に低下しています。

図3 磁石表面から8 cm離れた場所までの磁束密度の計測結果
http://www.nuhw.ac.jp/topics/news/20161004-3.pdf (PDF/55.3KB)
強力な静磁場は、神経細胞膜のリン脂質を再編成し、シナプスにあるイオンチャネルの開口速度が低下することにより、皮質の興奮性が低下します。この嫌磁場異方性作用が生じるのに充分な磁束密度(50-200 mT)が、頭皮から皮質までの推定距離(2-3 cm)まで届いていることが明らかになりました。

原論文情報
Hikari Kirimoto, Akihiko Asao, Hiroyuki Tamaki, Hideaki Onishi. Non-invasive modulation of somatosensory evoked potentials by the application of static magnetic fields over the primary and supplementary motor cortices. Scientific Reports 6, Article number: 34509 (2016) doi:10.1038/srep34509

>>作業療法学科の詳細はこちら
http://www.nuhw.ac.jp/faculty/medical/ot/

>>運動機能医科学研究所の詳細はこちら
http://www.ihmms.jp/

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