5/13 勉強会

研究報告

担当:江玉

研究テーマ:腓腹筋内側頭の効果的・選択的ストレッチング方法の考案

  • 目的:(1)下腿三頭筋を肉眼解剖学的に詳細に分析し,内側頭の効果的・選択的ストレッチング方法を考案すること,(2)健常成人を対象に,考案した方法を超音波装置を用いて定量的に検証すること .
  • 方法:<実験1>肉眼解剖学的手法を用いて下腿三頭筋の構造を詳細に分析した.得られた解剖学的所見から,内側頭の効果的・選択的ストレッチング方法を考案した.<実験2>ストレッチング肢位1:膝関節伸展0°・足関節背屈10°,肢位2:股関節内旋15°・膝関節伸展0°・足関節背屈10°・外反10°,肢位3(考案肢位):股関節内旋15°・膝関節伸展0°・足関節背屈10°・内反10°の3肢位で超音波装置を用いて内側頭の羽状角,筋厚,筋線維長を計測した.
  • 結果:考案した肢位3は,他の肢位に比べて有意に羽状角は減少し,筋線維長は増加した.
  • 考察:膝関節伸展・足関節背屈に股関節内旋(下腿内旋)・足関節内反を加えることで腓腹筋内側頭を効果的・選択的にストレッチングできると考える.

担当:椿

研究テーマ:多段階負荷による自転車エルゴメータ駆動中の大脳皮質血流の変化

  • はじめに:近赤外線分光法(near-infrared spectroscopy; NIRS)は,近赤外線光に対する吸光度の違いによる酸素化ヘモグロビン(O2Hb)と脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化量により,神経活動に伴う血流変化を非侵襲的に測定するものである.機能的核磁気共鳴画像法などに比較して測定中の身体の拘束が少なく,ほぼリアルタイムに長時間の連続測定が可能であることから,粗大運動中の血流変化を測定するには最も適しているとされる.歩行中や運動療法介入中の変化に関する報告が多く行われ,慢性閉塞性呼吸器疾患患者を対象に定常負荷運動中の呼吸困難感との関係を調べた報告もなされている.しかし,運動強度が変わることによって大脳皮質血流がどのように変化するかは明らかになっていない.エネルギー供給を血流に依存している脳組織において,運動療法中の脳循環変動を明らかにすることは,安全な理学療法の実施において非常に重要な課題である.よって本研究の目的は,多段階負荷により運動強度を変化させたときの大脳皮質血流の変化を明らかにし,運動療法実施中のリスク管理における基礎的知見を得ることである.
  • 方法:健常成人7名(男性3名,女性4名)を対象とした.自転車エルゴメータ(75XL-II,コンビ)による下肢ペダリング運動を課題とし,安静4分,軽負荷でのウォーミングアップ4分の後,最大酸素摂取量の30%(30%VO2max),50%(50%VO2max),70%(70%VO2max)の負荷量で,それぞれ5分間の運動を実施した.この間の大脳皮質酸素化ヘモグロビン濃度(O2Hb)を,脳酸素モニタ(OMM-3000,島津製作所)を使用し,国際10-20法によるCzを基準として送光プローブと受光プローブを配置して測定した.また運動中には,呼吸代謝測定装置(エアロモニタAE-300,ミナト医科学)により酸素摂取量(VO2),二酸化炭素排泄量(VCO2)をbreath by breathで測定した.運動中の心拍数(HR)および平均血圧(MAP)は,左第III指に装着した連続血圧・血行動態測定装置(Finometer,Finapress Medical Systems)により,beat by beatにて計測した.計測値はすべて,安静時平均値に対する課題中の変化量を算出した後1分ごとの平均値を求め,経時変化を観察した.
  • 説明と同意:本研究は,新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号17368-121108).また対象者には本研究の目的や方法等について十分な説明を行い,書面にて参加の同意を得た.
  • 結果:運動強度の増加に伴い,VO2,VCO2,HR,MAPは段階的に増加した. O2Hbはウォーミングアップ中に0.008±0.024mM・cm上昇し,30%VO2maxから50%VO2maxの3分までほぼ一定に保たれた.50%VO2maxの4分目以降から70%VO2maxの2分目にかけて,0.035±0.011mM・cmまで著しく増加した.その後著明に低下し,運動終了後1分目では-0.007±0.069mM・cmと,安静時以下まで低下した.
  • 考察:脳の神経細胞は,その活動が活発になると周辺部位の血管拡張と血流量増加が生じ,活動のエネルギー源となる酸素が供給される.NIRSはこの神経活動に伴う血流の変化を測定しているとされ,安静時に比べO2Hbが増加した場合,増加した部位に神経活動があったと解釈される.しかし,体表から照射した近赤外線光を用いて脳組織血流を測定するため,皮膚や皮下組織,あるいは体循環変動など大脳皮質以外の血流変化を含むことも指摘されている.70%VO2max前半までに生じたO2Hb の増加は,運動強度の増加に伴って増加する大脳皮質の神経活動と血圧上昇を反映する変化と考えられる.一方,70%VO2max後半ではO2Hbが著明に低下した.高強度運動中には内頸動脈の血流量および中大脳動脈の血流速度が低下し,外頸動脈の血流量が増加することが報告されている.運動強度の増加に伴いMAPが増加していること,外頸動脈の血流量が増加する運動負荷量であることを考えると,70%VO2max後半におけるO2Hbの著明な低下は,頭蓋内血液量の低下を示している可能性も考えられる.
  • 理学療法学研究としての意義:脳循環は,自動調節能によりある範囲内での血圧変動であれば一定に保たれるとされてきた.しかし,運動時の脳循環は一定ではないとの報告や,運動強度の増加に伴い脳血流量が低下するとの報告もされている.安全な運動療法の実施には運動療法中の脳循環動態の解明が不可欠であり,本研究においてこの解明の糸口となる基礎的な知見を得ることができた点で,理学療法学研究としての意義を持つものと言える.

担当:高井

研究テーマ:認知課題中の血圧変動が近赤外線分光法での頭蓋内血流変動に及ぼす影響

  • はじめに近年,生体透過性に優れた近赤外光を用いて,脳循環酸素代謝を計測する近赤外線分光法(NIRS)が急速に普及してきた.NIRSが注目を集める大きな要因は,その安全性と拘束性の低さであり,運動時の脳機能計測に応用される例も報告されている.一方で,NIRSの計測方法に由来する問題点として,計測された信号は純粋な脳血流量だけでなく,頭皮血流や体循環変動などの要因によって変化するとの報告もあり,計測したヘモグロビンの変化と脳神経活動との関連性の解明が不十分であるといった点も指摘されている.特に,認知課題中の血圧変動の影響については十分に検証されてはおらず,この影響について明らかにすることでNIRSの信頼性を高める方法の開発に役立つのではと考えた.そこで,本研究は認知課題中の血圧変動がNIRS信号に及ぼす影響について検討することを目的とする.
  • 方法:右利き健常成人男性12名(年齢:21.2±0.4歳)を対象に,カラーワードストループ課題(CWST)中の酸化ヘモグロビン量(oxy-Hb)を脳酸素モニタ(OMM-3000,島津製作所)を使用し,測定した.プロトコルは,課題前安静20秒,課題中20秒,課題後安静20秒の計60秒を1セットとし,これを3回繰り返した.NIRSによる測定領域は,CWSTによって賦活するとされる左前頭前野背外側部と,CWSTへの関与が少ないとされる補足運動野とした.プローブ間隔30mmのホルダを使用し,国際10-20法におけるCzを基準とし,照射プローブ8本,受容プローブ8本を頭部に4×4の配列で設置した.また,CWST中には連続血行血圧動態装置(Finometer,Finepress Medical Systems)を使用し,右手の第3指にカフを巻き,脈拍1拍ごとに収縮期血圧(SBP)を測定した.解析は課題前安静20秒の平均からの変化量を求め,3回分を加算平均し,全被験者分を平均した.統計処理はSBPとoxy-Hbとの相関関係の強さを課題前安静,課題中,課題後安静それぞれで,スピアマン順位相関係数検定により求めた.有意水準は5 %とした.本研究はヘルシンキ宣言に則って実施した.被験者には実験内容について十分に説明をし,書面にて同意を得た.
  • 結果:認知課題遂行に伴いSBPは最大21.9± 8.4 mmHg上昇した.SBPとoxy-Hb間の相関係数は,左前頭前野背外側部で課題前安静r=-0.089(p=0.272),課題中r=0.729(p<0.05),課題後安静r=0.304(p<0.05)と課題中のみに強い正の相関がみられた.補足運動野では,課題前安静r=-0.031 (p=0.705),課題中r=0.362 (p=0.735),課題後安静r=0.302 (p<0.05)であり,いずれにも強い相関は認められなかった.
  • 考察:本実験では認知課題の実施に伴い,20mmHg程度のSBP上昇が認められた.これはプレッシャーや緊張状態から交感神経活動が亢進したことによるものと考えられる.しかし,今回の結果では前頭前野背外側部のSBPとoxy-Hbとの間に,課題中においてのみ正の相関が認められた.この原因としてNIRS信号が安静中の血圧変動には影響されず,課題中の大きな血圧変動に影響を受けたこと考えられる.一方で,補足運動野においては相関が認められなかった.血圧がNIRS信号に影響を与えるならば,全チャネルにおいて血圧上昇に同調したoxy-Hbの上昇が観察されることが推測される.しかしCWSTの賦活領域のみに血圧との相関がみられる結果となった.このことは,血圧上昇が交感神経活動亢進のみによらず前頭前野背外側部局所の血流を増加させるために血圧を上げていた可能性を示している.先行研究では,一定強度以上で脳の限局的な活性領域に過剰に酸素が流入するのを防止する調整メカニズムの存在が明らかにされている.これより,一定以下の刺激では血圧上昇を伴って活動組織以外の血流を活動部位へ引きこむ現象が起こり得るのではないかと考えた.前頭前野背外側部のみで相関がみられたことに関する他の解釈としては,前頭前野背外側部が特に皮膚血流をNIRS信号に反映しやすいような構造であることも考えられる.これまでに前額部のoxy-Hb濃度変化の大部分は,心拍数とは異なる自律制御下にある皮膚血流のタスクに関連した変化が原因であり,前頭極部分でのNIRS計測に大脳皮質の血流変化が反映されにくいことが報告されている.今後,NIRS信号に影響を与える血圧の基準値を明らかにすること,前頭前野背外側部以外の領域に関する課題を用いて領域ごとの血圧の影響の差異を明らかにすることで,より純粋な脳機能の計側へ発展させることが出来ると考えられる.また,活動部位へ血流を増やすために血圧を上昇させる現象の存在が裏付けられれば,NIRS計測における血圧上昇が脳活動と無関係のアーチファクトでない可能性も考えられ,今後検証していく必要がある.
  • 理学療法学研究としての意義:本研究は,NIRSを用いたより純粋な脳機能計測へ発展させる為の基礎的な研究として位置付けることができ,脳活動に着目した理学療法効果判定の精度向上に繋がるものである.