6/15 第49回日本作業療法学会予演会

【第49回日本作業療法学会予演会】

担当:桐本

タイトル:同側手内筋および利き手-非利き手の同名筋間における皮質中継時間の違い

Difference in cortical relay time between intrinsic muscles and between homonymous muscles of dominant and non-dominant hands

要旨

  • はじめに:長潜時伸張反射(Long latency reflex: LLR)の生成には,求心路から遠心路への中継に皮質を介した神経経路が関与すると考えられている.LLRの潜時成分は,感覚神経または筋の興奮が皮質に到達するまでの求心性上行時間,次いで皮質内での中継処理時間,そして皮質から筋までの遠心性下行時間である.この内,求心性上行時間は,体性感覚誘発電位(Somatosensory evoked potentials: SEP)の早期成分N20の潜時に,また,遠心性下行時間は,経頭蓋磁気刺激(Transcranial magnetic stimulation: TMS)により誘発される運動誘発電位(Motor evoked potentials: MEP)の潜時に相当することから,皮質中継時間(Cortical relay time: CRT)は,LLRの潜時からSEPとMEPの潜時を減じた値により算出される(Deuschl et al, 1989).足趾筋群のCRT(約3 ms)は手の母指球筋群のそれ(約10 ms)と比較して短いとの報告(Kurusu & Kitamura, 1999)はあるが,手内筋間のCRTを比較した研究は見当たらない.
  • 目的: 短母指外転筋(APB)と第一背側骨間筋(FDI)とでは,CRTに違いがあるのか,また両側同名筋のCRTには,ラテラリティが存在するか否かを比較検討した.
  • 方法: 健常成人被験者22名(女性7名,左利き6名,年齢20-40歳)を対象とした.実験はヘルシンキ宣言に則った内容で計画され,実験開始前に被験者には十分な説明を行い,書面にて同意を得た.実験の実施については新潟医療福祉大学倫理員会からの承認を得た.被験者が最大筋力の約10%を保持するAPBまたはFDIの静的筋収縮中に,各筋の支配神経(正中神経または尺骨神経)に対して経皮電気刺激を行い, LLRとSEPを同時に記録した.また,別のセッションにて運動肢と対側の一次運動野に対するTMSによりMEPを記録した.LLRの潜時(onset)からMEP(onset)とSEP成分N20(peak)の潜時を差し引き,CRTを算出した.
  • 結果:CRTは,利き手ではAPBが8.6±2.1 ms,FDIが5.2±1.7 ms,非利き手ではAPBが11.0±2.4 ms,FDIが5.4±1.8 msであった.利き手,非利き手にかかわらず,同側手内筋のCRTはAPBと比較してFDIで有意に短かった(P<0.001).また, APBのCRTは,非利き手と比較して利き手で有意に短かった(P<0.001)が,FDIのCRTには利き手-非利き手間で有意な差が認められなかった.
  • 考察:本研究結果により,APBのCRTにはラテラリティが存在すること,また利き手,非利き手かに関わらず,FDIのCRTはAPBより短いことが明らかになった.これらの結果は,一定の筋力を保持する課題において,APBではFDIより固有受容感覚をより多く必要としていること,利き手では非利き手より効率のよい感覚情報処理過程が発達していることを示唆すると考えた.同側手内筋間および利き手‐非利き手の同名筋間におけるCRTの違いには,それぞれの筋において,感覚運動連関系の神経経路のシナプス数の違いが関与しているのではないかと推察した.CRTの測定は,手内筋の機能特性やラテラリティの発達を評価するために有効な方法であることが示唆された.