桐本光教授が第9回日本作業療法研究学会学術大会にて最優秀演題賞を受賞しました

2015年10月24-25日,神奈川県立保健福祉大学で開催された第9回日本作業療法研究学会学術大会にて,作業療法学科 桐本光教授が最優秀演題賞を受賞しました。

桐本教授の受賞演題は下記の通りです。

 

受賞演題

桐本 光 教授 「一次運動野に対する静磁場刺激による感覚誘発電位の減少」

要旨

【背景】近年の研究により,ヒトの頭皮上に強力なNdFeB磁石を置くことで,ヒトの一次運動野(M1)の興奮性が抑制されることが明らかとなった(Oliviero et al., 2011; Silbert et al., 2013).これは経頭蓋静磁場刺激(Transcranial static magnetic stimulation: tSMS)とよばれ,先行する経頭蓋磁気刺激(TMS)や経頭蓋直流電流刺激(tDCS)に次ぐ,非侵襲的脳刺激ツールとして注目されている.一方,TMSやtDCSによる薬剤難治性の慢性疼痛の治療では, S1ではなくM1を刺激ターゲットとすることにより,鎮痛効果があるとの数多くの報告がある.従って,tSMSが他の非侵襲的脳刺激ツールの代替手段となり得るか否かを検討するために,M1に対するtSMSがS1の興奮性に及ぼす影響について調べる必要がある.

【目的】一次運動野に対するtSMSによりS1の興奮性の視標である感覚誘発電位(Somatosensory evoked potentials: SEPs)の振幅が変化するか否かを検証すること,更にはtSMSに使用するNdFeB磁石の磁束密度は距離に依存してどの程度減衰するのかを計測することを本研究の目的とした.

【方法】14名の健常成人を対象とし,M1に対するtSMS及びSham刺激を15分間行い,刺激前,刺激終了直後,5分後,10分後にSEPを記録した.SEPは右正中神経刺激(3.3 Hz, 300回)により誘発し,記録電極はC3’及びF3に設置した.tSMSに用いたNdFeB磁石は,直径50 mm,高さ30 mmの円柱状で,最大エネルギー積49 MGOe,最大最吸着力862 Nであった.Sham刺激には,これと同形状,同質量のステンレス製シリンダを使用した.NdFeB磁石表面から5 mmごとに40 mmまでの磁束密度を記録した.

【結果】C3’から記録されたSEPs成分の内,P25とN33の振幅が刺激直後において有意に減少した. NdFeB磁石の磁束密度は,磁石表面では500 mT,ヒトの頭皮から皮質までの距離と推定される20-30 mmにおいて110-190 mTであった.

【考察】細胞膜電位の上昇に重要なNa+やCa2などのイオンチャネルの機能低下を惹起するには100-150 mTの磁束密度が必要とされている.本研究で使用したNdFeBの静磁場は,ヒトの皮質神経細胞の興奮性低下に充分な磁束密度を有するものと推察した.SEPs成分のP25とN33の減少は,TMSやtDCSによる先行研究の結果と部分的に一致しており, S1の興奮性を非侵襲的に変化させる脳刺激方法として,M1に対するtSMSは有効である事が示唆された.

 

写真は大会長から賞状を授与された直後の桐本教授