1/25 博士課程審査会

【博士課程審査会】

担当:小島

タイトル:No relation between afferent facilitation induced by digital nerve stimulation and the latency of cutaneomuscular reflexes and somatosensory evoked magnetic fields

要旨

  • 目的:電気刺激などの末梢感覚入力は,皮質脊髄路の興奮性を変動させることが可能である.経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation; TMS)を利用して大脳皮質一次運動野を刺激すると末梢の標的筋より運動誘発電位(motor evoked potential; MEP)が記録される.正中神経や指神経を対象とした電気刺激とTMSの刺激間隔を20-50 msまたは100-200 msに設定すると,単発刺激時に比べMEP振幅値の減少が認められる.この現象は,短潜時求心性抑制および長潜時求心性抑制といわれている.一方,正中神経刺激とTMSの刺激間隔を45-80 msとするとMEP振幅値の増大が認められ,この現象は求心性促通(afferent facilitation; AF)といわれている.先行研究では,正中神経などの複合神経刺激によりAFが誘発されることが明らかとなっているが,指神経刺激により誘発されるか否かは一定の見解が得られていない.また,AFを誘発する因子の特定はなされておらず,そのメカニズムは不明な点が多い.そこで本研究は,指神経刺激によりAFが誘発されるか否かを検討したのち,指神経刺激によるAFと体性感覚誘発磁界(somatosensory evoked magnetic field; SEF)または皮膚筋反射(cutaneomuscular reflex; CMR)との関連を明らかにすることを目的とした.
  • 方法:対象は健常成人13名(23.5 ±3.2歳)であった.指神経刺激(ring電極)の刺激部位は,右示指先端とし,刺激強度は感覚閾値の3倍とした.MEPの計測には,経頭蓋磁気刺激装置Magstim 200(8の字コイル)を使用し,刺激部位は右第一背側骨間筋の最適点とした.また,磁気刺激の刺激強度は,安静時の筋より1 mVのMEPが誘発される最小強度とした.MEP測定は,単発磁気刺激条件および電気刺激と磁気刺激の組み合わせ刺激条件(刺激間隔;20,30,40,50,60,70,80,100,140,180,200,220 ms)の合計13条件とし,刺激頻度は0.2 Hzとした.SEFは,示指への指神経刺激(刺激頻度;0.2 Hz)により記録し,刺激後70 ms前後の振幅潜時(P60m)を算出した.また,CMRは,一定筋収縮中(最大随意収縮の5 %程度)に指神経刺激(刺激頻度;0.5 Hz)を与えることで記録し,得られた波形の最大値までの潜時(E2 peak)を算出した.統計処理は,各被験者において刺激間隔50から100 msでMEPが最大となったMEP振幅値(AF)と単発刺激時に得られたMEP振幅値の比較をWilcoxon’s rank testを用いて行った.また,P60mおよびE2 peak潜時とAF潜時との関連には,Peasons’s correlationを用いた.なお,有意位水準は5 %とした.
  • 結果:刺激間隔が100 ms以内でMEP振幅値の増大が認められた被験者は13名中11名であった.各被験者でMEPが最大となった刺激間隔でのMEP振幅値は単発刺激時に比べ有意な増大を認め(p < 0.01),最もMEPの増大が認められた平均潜時は,68.2 ± 12.5 ms(AF)であった.各被験者においてSEFおよびCMRは著明な波形が記録され,平均潜時は,70.7 ± 8.6 ms(P60m)および70.4 ± 8.6 ms(E2)であった.MEPの増大が認められるAF潜時は,P60m潜時(r = -0.50,p = 0.12)およびE2 peak潜時(r = -0.54,p = 0.88)との間に有意な相関関係が認められなかった.
  • 結論:本研究では,指神経刺激によりAFが誘発可能であり,その誘発潜時は被験者により異なることが明らかとなった.さらに,AFが記録される刺激間隔とSEFのP60mおよびCMRのE2 peak潜時との間に関連性が認められないことが明らかとなった.AFは脊髄反射成分であるH波や経頭蓋電気刺激によるMEP変化を伴わないことから,皮質内の興奮性変化であることが知られている.一方, CMRのE2成分は,皮質レベルの反応を反映しており,皮質興奮性変動に関連していると報告されている.また,SEFのP60m成分は,Brodmann areasの1および2野の活動を反映していることが報告されており,さらに1および2野から4野に直接的な連結がある可能性が考えられている.したがって,我々はP60mまたはE2 peak潜時がAF潜時に関連しているのではないかと予測したが,関連性は認められなかった.本研究によって,指神経刺激によりAFを誘発することが可能であることが明らかとなった.しかし,その潜時は被験者により異なり,SEFのP60mやCMRのE2 peak潜時より予測することは困難であることが示唆された.