3/30 勉強会

【研究報告】

担当:鈴木

タイトル:膝痛の有無が膝伸展筋力発揮率に与える影響

  • 目的:膝痛の有無によって膝伸展筋力発揮率にどのような影響があるのかを明らかにする。
  • 方法:対象は膝痛を有する地域在住高齢者193名とした。膝伸展筋力発揮率は徒手筋力計とADコンバーターを用いて、0-200ms間のトルク値の傾きを算出した。膝痛はVisual Analogue Scale (VAS) にて評価した。
  • 結果:測定項目に欠損のない152名を最終解析対象者とした。膝痛を有する対象者は、有意に膝伸展筋力発揮率が低下していることが明らかとなった。また、年齢と性別で調整しても結果は変わらなかった。
  • 考察:本研究結果より、膝伸展筋力発揮率は膝痛に影響を受けることが明らかとなった。引き続き、膝痛を主症状とする変形性膝関節症 (膝OA) との関係性や、膝OAの機能障害との関係性を検討していきたい。

 

【文献抄読】

担当:堀田

タイトル:Skeletal muscle microvascular and interstitial PO2 from rest to contractions. (骨格筋の微小血管と間質における酸素分圧:安静時から収縮時への変化)

出典:Hirai  et al. J Physiol 596(5):869-883, 2018

  • なぜこの論文を紹介しようと思ったか:酸素は運動を継続する上で必要不可欠である。筋への酸素供給については,肺での酸素取り込みや心臓のポンプ作用が重要であるのは言うまでもないが,酸素の最終目的地である骨格筋毛細血管,間質そしてミトコンドリアといった微小環境における拡散動態については未知である.著者であるKansas State University のPooleら,および電気通信大学の狩野らは,酸素クエンチング法という手法を用いて骨格筋の毛細血管と間質の酸素分圧のデータを報告した.
  • 背景:酸素分圧の血液・筋細胞間の勾配が存在することで,酸素拡散が生じ,その結果酸化的代謝に必要な酸素分子が筋細胞へと供給される.酸素勾配を生じさせている一番の原因は,赤血球表面と筋細胞膜の間であると信じられている.しかしながら,この酸素勾配を筋収縮時に計測した報告はない(筆者補足:計測技術がなかった).我々は,骨格筋の微小血管(PO2mv)と間質(PO2is)における酸素勾配が存在すること,そしてこの酸素勾配は筋収縮時に維持あるいは増大すると仮説を立てた.
  • 方法:酸素クエンチング法を用いてPO2mvとPO2isを計測した.その際に用いた酸素プローブはそれぞれOxyphor G2およびG4である.対象とした筋はラットの脊柱僧帽筋であり,安静時から収縮時(1 Hz, 6V, n=8)にかけて計測した.
  • 結果:PO2mvはPO2isよりも安静時・収縮時いずれにおいても常に高値であった.酸素勾配(PO2mvとPO2isの差)はあ安静時と収縮時で違いを認めなかった.しかしながら,収縮時の酸素分圧の減衰速度は,PO2mvよりもPO2isで速かった.
  • 考察:我々の仮説の通り,酸素勾配は筋収縮時に安静時の水準を維持(しかし増えなかった)していた.本研究結果は,酸素拡散を引き起こすうえで,血液と筋細胞間は重要な役割を担っていることが明らかとなった.Fickの法則に基づいて,筋収縮時に酸素供給が増えるメカニズムを考えてみよう.赤血球の血行動態や分布を含めた効果的な酸素拡散が酸素供給の増大に関与することを本研究結果は示唆している.
  • 最後に:現在,本学の実験室においても酸素クエンチング法を用いた骨格筋酸素分圧の計測をはじめています.興味のある先生あるいは大学院生がいれば,堀田までご連絡ください.