10/4 勉強会

【研究報告】

担当:太田

タイトル:筋および筋膜における遅発性筋痛関連因子の発現部位

  • 目的:遅発性筋痛に深く関与する神経成長因子(NGF)と,侵害性メカノセンサー分子として近年同定されたTACAN (Tmem120A) が筋・筋膜のどこで発現増大するか調べた.
  • 方法:雄性SDラットの下腿伸筋群に伸張性収縮(LC)を反復負荷し,遅発性筋痛モデルを作製した.機械痛覚過敏の発症がピークとなる1日後において(1)前脛骨筋表層,(2)前脛骨筋深層および(3)前脛骨筋を覆う下腿筋膜を採取し,NGFおよびTACAN mRNAの発現レベルをリアルタイムPCR法により定量し,LC反対側(非運動側)と比較した.
  • 結果:運動側の筋では,表層のNGF発現レベルは深層に比べ有意に高かった.一方,下腿筋膜のNGF発現レベルは運動側と非運動側の間に差がなかった.TACAN発現レベルは運動側の筋表層で発現増大したが,筋膜では変化がなかった.
  • 考察:一般に,LCによる力学的負荷の影響は遅筋よりも速筋で大きく,速筋線維は筋表層に多いことがわかっている.そのため,力学的負荷を強く受けた筋表層でNGFの産生量がより増大したと考えられる.一方,筋膜はコラーゲンを主成分としNGF産生細胞が少ないため,その発現量に変化がなかったと考えられた.また,本研究によりTACANが遅発性筋痛に深く関与する因子であることが初めて明らかとなった.

 

【文献抄読】

担当:堺

タイトル:Vagal Flexibility Mediates the Association Between Resting Vagal Activity and Cognitive Performance Stability Across Varying Socioemotional Demands

出典:Derek P Spangler and Jared J. McGinley, Front. Psychol (2020). 11: 2093

  • 目的:迷走神経柔軟性とは、心臓迷走神経の反応を調整して、様々な課題に対処する能力である。また、迷走神経柔軟性は、安静時の迷走神経活動を媒介して、適応的な行動や認知に影響を及ぼすと考えられている。しかし、迷走神経の動的な柔軟性を調べた研究はほとんどなく、メカニズムは不明。
  • 方法:47名の健常者を対象に、IADSから選出した妨害音を聞かせながらStroop課題を行ってもらい、その際の迷走神経の反応性を記録した。迷走神経の指標にはRMSSDを用いた。パフォーマンスの安定性はStroop課題の不一致試行と一致試行の反応時間の差とした。迷走神経柔軟性は、異なる種類の妨害音を聞きながらStroop課題を行ったときのセットごとの迷走神経反応のバラつきとして評価した。
  • 結果:Stroop課題の反応時間は不一致試行で有意に遅く、迷走神経柔軟性の低い群および中等度の群では、情緒性の高い妨害音が不一致試行の反応時間に有意な交互作用を及ぼしていた。また、安静時迷走神経活動が高い人で迷走神経柔軟性が高いという有意な正の相関関係が認められた。そして、安静時迷走神経活動がパフォーマンスの安定性におよぼす影響を、迷走神経柔軟性が有意に媒介していることも明らかとなった。
  • 結論:迷走神経柔軟性が安静時迷走神経活動と認知パフォーマンスとの関係を媒介することを示した。このことから、迷走神経柔軟性は、有害な情動的妨害の効果を抑制することで、パフォーマンスの安定性の維持に貢献していることが示唆された。