11/1 勉強会

【研究報告】

担当:五十嵐(眸)

タイトル:背外側前頭前野へのθおよびβ帯域刺激による鎮痛効果

  • 目的:慢性疼痛患者は背外側前頭前野(DLPFC)におけるθ及びβ帯域律動が増加することが報告されている.本研究では,皮質の律動活動を変調させることのできる経頭蓋交流電流刺激(tACS)を用いて,DLPFCにおけるθ及びβ帯域律動変調が痛みに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.
  • 方法:健常成人(n = 60)をθ-tACS群,β-tACS,sham-tACS群(n=20ずつ)に分けた.tACS刺激前(Pre),刺激中(During),刺激後(Post)における痛みの評価を行った.tACSは電極貼付位置をF3-Fpz,刺激強度を1mAとし,20分の介入とした.痛みの評価指標としては,熱痛閾値と熱痛耐性閾値を用いた.また,電界シミュレーションを用いて鎮痛効果とtACS刺激によって生じる電界との関連も併せて検討した.
  • 結果: 熱痛閾値に関しては,3条件において交互作用が認められた.tACS刺激中におけるPreからの変化率を比較したところ,刺激中ではsham-tACSと比較してθ-tACS,刺激後ではβ-tACSで有意な閾値の上昇を認めた.熱痛耐性閾値については交互作用を認めなかった.鎮痛効果と電界強度の関連については,θ-tACSによって生じる電界と 鎮痛効果に逆U字相関が認められた.
  • 結論:θ-tACSは刺激中,β-tACSは刺激後に熱痛閾値が上昇することが明らかとなり,慢性疼痛患者で認められるDLPFCのθおよびβ帯域活動の増大は鎮痛を担うことが示唆される.また,θ-tACSについては効果を得るための至適な電界強度がある可能性がある.

 

【文献抄読】

担当:井上

タイトル:施設入所中高齢者に対する転倒・骨折減少を目的としたRCT

出典:Iuliano S, et al. Effect of dietary sources of calcium and protein on hip fractures and falls in older adults in residential care: cluster randomised controlled trial. BMJ. 2021 Oct 20;375:n2364. doi: 10.1136/bmj.n2364. PMID: 34670754.

  • 目的:ビタミンDは充足しているが、平均カルシウム摂取量が<600mg/日、たんぱく質摂取量が<1g/kg体重/日の施設入所高齢者を対象に栄養介入の抗骨折効果と安全性を評価することを目的とした。
  • 研究デザイン:2年間のクラスターRCT。オーストラリアの高齢者ケア施設で、主に歩行者を収容している60施設が包含された。介入施設(30施設)はカルシウム562mg/日、たんぱく質12g/日を含む牛乳、ヨーグルト、チーズを入所者に追加提供し、総摂取量はカルシウム1142mg/日、たんぱく質69(15)g/日(1.1g/kg体重)となるように介入が行われた。コントロール群(30施設)では通常のメニューとし、入居者は700(247)mg/日のカルシウムと58(14)g/日のたんぱく質を摂取した(0.9g/kg体重)。
  • 主要評価項目:骨折、転倒、全死因死亡
  • 結果:介入により、全骨折は33%(121対203、ハザード比0.67、95%信頼区間0.48-0.93、P=0.02)、大腿骨近位部骨折で46%(42対93、0.54、0.35-0.83、P=0.005)、転倒で11%(1879対2423、0.89、0.78~0.98、P=0.04)のリスク減少が認められた。大腿骨近位部骨折と転倒のリスク減少は、それぞれ5ヵ月後(P=0.02)と3ヵ月後(P=0.004)に有意になった。死亡率は変わらなかった(900対1074、ハザード比1.01、0.43-3.08)。
  • 結論:乳製品を利用してカルシウムとたんぱく質の摂取量を改善することは,高齢者施設の入居者の転倒や骨折のリスクを低減する,容易に実施できる介入である。