11/15 勉強会

【研究報告】

担当:渡邉(拓)

タイトル:健常若年成人における脳灰白質容積の変動性〜性別およびBDNF遺伝子多型の影響〜

  • 目的:若年健常成人における短期間の脳灰白質容積の変動性を検討するとともに,変動性に寄与すると予想される因子[性別および脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子多型]が脳灰白質容積の変動性に及ぼす影響を検討する.
  • 方法:対象は若年健常成人41名とし,約4か月(平均値 ± 標準偏差:114.5 ± 42.8日)の間隔を空け2枚のT1強調脳画像を縦断的に撮像した.脳灰白質容積の算出にはVBM法を用い,それぞれの総灰白質容積,総白質容積,脳脊髄液容積,47領域の局所脳灰白質容積を算出した.脳灰白質容積の変動性の指標には級内相関係数(ICC)およびTest-retest variability (%TRV)を用いた.
  • 結果:全47領域中43領域のICCはexcellent(ICC(1, 2) > 0.90),3領域のICC はgoodであったが(中心傍小葉:ICC(1, 2) = 0.813,被殻:ICC(1, 2) = 0.873,淡蒼球:ICC(1, 2) = 0.805),視床のICCのみmoderateであった(ICC(1, 2) = 0.694).また,女性のVal66Val型は男性のMet carrierと比較して脳灰白質容積変動性がわずかに高い傾向があった.
  • 考察:短期間における脳灰白質容積変動性は小さく,先行研究(Seiger et al., 2015)を支持する結果となった.また,女性およびVal66Val型の脳灰白質容積変動性の高さは,月経周期に伴うホルモン濃度の変化の影響を反映している可能性が示唆される.
  • 結論:健常成人における約4ヶ月間の脳灰白質容積変動性はほとんどの脳領域で小さく安定しているが性別およびBDNF遺伝子多型の影響を受ける.また,女性のVal66Val型の脳灰白質容積変動性はわずかに高い可能性が示唆された

 

【文献抄読】

担当:山田

タイトル:アンバランスな咬合は運動誘発性の脳活動パターンを変化させる

出典:Tramonti et al. (2019) Unbalanced Occlusion Modifies the Pattern of Brain Activity During Execution of a Finger to Thumb Motor Task. Front. Neurosci. 13:499. doi: 10.3389/fnins.2019.00499

  • 背景:歯の噛みしめ(咬合)によって生じる三叉神経シグナルが,姿勢や運動に影響を与えるとして議論されている.また,近年では咬合状態やバランスに着目されている.咬合により運動パフォーマンスが変調する点を考慮すると,咬合時の脳活動にも変化が生じると考えられる.
  • 目的:本研究の目的は,咬合バランスが指運動課題時に誘発される脳活動に及ぼす影響を明らかにすることである.
  • 方法:咬合時,左右非対称な咬筋筋活動を呈する被験者(8名)を対象とした.以上の被験者は咬合スプリントによる咬合矯正により,筋活動の左右差は減少した.指の運動によって賦活する脳活動の計測には,機能的磁気共鳴画像(fMRI)による血中酸素濃度依存性(BOLD)信号を用いた.指運動課題はa)歯が直接接触している条件,b)咬合スプリントを装着した状態で歯を接触させる条件の2条件で行った.運動課題中に記録されたBOLD信号を,安静時の状態と比較した.
  • 結果:運動課題中に賦活された脳領域を2条件(Bite OFF/Bite ON)で比較した結果,Bite OFFで,三叉神経の感覚運動領域,運動前野,小脳,下側頭・後頭皮質,鳥距溝,左右の楔前部、右後帯状皮質でBOLD信号が有意に高かった.
  • 考察:Bite OFFで三叉神経の感覚運動領域,運動前野,小脳の活動が増幅した結果を受けて,アンバランスな咬合は,運動の計画・実行に努力を要し,運動パフォーマンスを困難にする可能性がある.後頭葉,鳥距溝および後帯状皮質の活動が増幅した結果から,アンバランスな咬合時,視覚的なイメージ活動が高まり,より強い注意力が必要になることが示唆された.
  • 結論:アンバランスな咬合は,運動誘発性の脳活動を増幅し,運動パフォーマンスの低下を引き起こす可能性が示唆された.