研究論文が国際誌「Cerebral Cortex」に採択されました‼

(研究の概要)

体性感覚機能を評価するための「二点識別覚検査」は臨床場面でしばしば用いられます.この二点識別覚は体性感覚の空間識別能力を反映しており,大脳皮質の多くの領域が関与していることがわかっていますが,それぞれの領域がどのような役割を担っているのか,まだまだ不明な点が多いのが現状です.そこで,本研究では,若年健常者における皮質灰白質(GM)容積と二点識別覚閾値との関係を詳細に解析し,体性感覚機能の個人差を反映する脳構造の特徴を調べました.まず,健康な若年成人を対象にして,パーソナルコンピュータで制御可能な特殊な検査装置を用いて二点識別覚閾値を測定しました.その後,3T-MRIスキャナーを用いて取得したT1強調MRI構造画像を対象にしてvoxel-based morphometry法(VBM法)を用いてGM容積を算出しました.二点識別覚閾値とGM容積の関係を重回帰分析した結果,二点識別覚閾値が低いほど(体性感覚機能が優れているほど),対側半球の中側頭回から下頭頂小葉までのGM容積が少ないことが判明しました(図).この結果は,皮質GM体積は体性感覚機能のバイオマーカーとなり得る可能性があることを示唆しています.

(研究者からのコメント)

一般的にパフォーマンスが良いと,それの関連する特定の皮質領域の容積が大きいと考えられがちですが,今回の研究ではパフォーマンスが良いほど皮質の特定領域の容積が少ないことを示しました.このような関係性(機能が良いほど特定の皮質領域が小さい)は,注意機能や認知機能などでも報告されていますが,体性感覚機能に関連してこのような関係性を明らかにしたのは世界初であり,体性感覚情報処理に関する理解を深めるものだと考えています.

(本研究成果のポイント)

体性感覚機能が良い人ほど,大脳皮質の中側頭回から下頭頂小葉にかけて灰白質の容積が少ないことが判明しました.

図.二点識別覚閾値と灰白質(GM)容積の関連.緑色で示している場所は,二点識別覚閾値との有意な正の相関,すなわちGM容積が少ないほど二点識別覚閾値が低い(体性感覚機能が良い)ことを示しています.この領域は左中側頭回と下頭頂小葉に位置しています.赤色で示している場所は負の相関,すなわちGM容積が大きいほど体性感覚機能が良いことを示していますが(左小脳第一脚),多重比較の補正に耐えることができませんでした.

(原論文情報)

Onishi H, Nagasaka K, Yokota H, Kojima S, Ohno K, Sakurai N, Kodama N, Sato D,  Otsuru N. Association between somatosensory sensitivity and regional gray matter volume in healthy young volunteers: a voxel-based morphometry study. Cerebral Cortex. 2022 (in press) DOI: 10.1093/cercor/bhac188