7/11 勉強会

【研究報告】

担当:松橋さん(M2)

タイトル:運動と音楽テンポの同調による脳酸素化動態の影響

  • 背景:ランニングや筋力トレーニングを行う際,音楽を聴きながら取り組むことが多い.しかし,ただ音楽を聞き流しているのか,音楽に合わせて動作が行われているのかで身体にどのような変化があるのかは不明である.外部からの刺激を運動に取り込み,同調させる脳領域として前頭前野や補足運動野の関与が報告されているが,指先のタッピング運動によるものが多く,全身運動については明らかになっていない.
  • 目的:運動中に音楽を聴き,音楽に対する同調の有無で脳酸素化動態に違いがあるのかを明らかにする.
  • 方法:対象は右利き健常成人とし,運動様式を自転車エルゴメータによる低強度のベダリング運動とする.運動中に前頭前野と補足運動野の酸素化ヘモグロビンを測定し,control条件,音楽聴取条件,音楽同調条件を比較する.

【文献抄読】

担当:高橋先生

タイトル:The mechanosensitive ion channel PIEZO1 is expressed in tendons and regulates physical performance

出典:Nakamichi et al., Sci Transl Med, 2022 doi: 10.1126/scitranslmed.abj5557

  • 目的:Hill’sモデルが示すように身体パフォーマンスには,腱の弾性エネルギーも重要な要因である.本研究では,腱細胞におけるPiezo1の機能についてヒト・動物実験の両面から検証することを目的とした.
  • 結果:ヒトにおけるコホート研究では,西アフリカ系のジャマイカ人大学生108名と瞬発系(100~400m,ジャンプおよび投擲競技)の国際大会に出場しているジャマイカ人選手91名のDNA解析を行った.その結果,瞬発系の競技者の方がPiezo1機能亢進型(E756del)を保有している割合が有意に高かった.マウスを用いた実験では,野生型,Piezo1筋特異的活性型,腱特異的活性型,全身性活性型を用い,運動機能,アキレス腱の力学特性,組織学的検討,生化学的検討についてそれぞれ検証した.その結果,ジャンプ距離や最大走行速度は,Piezo1腱特異的活性型および全身性活性化型マウスにおいて有意に運動パフォーマンスが向上した.一方,持久系パラメータの走行距離については,4群間で有意差は認められなかった.運動学的には,Piezo1腱特異的活性型マウスの跳躍時に大きく重心の上下動が生じ,足関節背屈角度が増大した.アキレス腱の力学的特性については,野生型と比較しPiezo1腱特異的活性型マウスは,ヤング率が低下し弾性限界が有意に上昇した.組織学的は,アキレス腱長に変化はなかったが,アキレス腱幅およびコラーゲン線維系は,Piezo1腱特異的活性型マウスで有意に増加した.mRNAの発現については,合成系(Mkx, Scx, Tnmd, Col1a1)やプロテオグリカン系(Dcn, Fmod, Prg4)のパラメータがPiezo1腱特異的活性型および全身性活性型マウスで有意に増大した.また,腱細胞を単離し,Piezo1のアゴニスト(Yoda1)を投与した結果,投与量依存的にカルシウムの流入が増大した.加えて,Piezo1腱特異活性型マウスは,野生型と比較し,Yoda1投与によりカルシウム流入が増大した.一方,骨格筋については,筋重量,筋直径,筋線維直径,羽状角,筋膜長,筋線維タイプのいずれの項目においても群間差を認めなかった.
  • 結論:腱におけるPiezo1は,合成系の転写因子などの発現上昇を伴い,肥大化に関与する.加えて,力学的特性は伸張しやすくなることが明らかになった.運動では,腱におけるPiezo1がヒトでも動物でも瞬発系の身体パフォーマンス向上に関与していることが明らかとなった.動および前庭症状は時間の経過とともに補償された.