1/15 勉強会

【研究報告】

担当:小島先生

タイトル:灰白質構造と脳卒中患者に対する経頭蓋直流電流刺激効果との関連

  • 目的:経頭蓋直流電流刺激 (tDCS) は脳卒中患者の運動機能を向上させるものの (Hummel, 2006),その介入効果がバラつくことが問題視されている (Wiethoff, 2014). 近年,Voxel-based morphometry (VBM) を用いることで脳の内部構造を詳細に解析することが可能になり,脳の灰白質容積と刺激介入効果の関連が報告されている (Conde, 2013).そこで,本研究の目的はVBM手法を用いてtDCS介入効果と灰白質容積との関連を明らかにすることとした.
  • 方法:対象は慢性期脳卒中患者15名 (63.1±9.3歳) であった.tDCS介入は損傷半球の補足運動野 (SMA) とし, Cz (国際10-20法) の前方3cmの箇所に陽極電極を貼付した (陰極電極:右頬部).刺激強度は2 mA,刺激時間は15分間とした.tDCS介入前後には10m歩行速度を計測した.VBM解析では入院時に撮像したT1強調画像を基に,一次運動野と一次体性感覚野,SMAの灰白質容積を算出し,損傷半球と非損傷半球間の容積差を算出した.tDCS介入によって歩行速度の改善を示した患者 (効果あり群) と示さなかった患者 (効果なし群) 間において半球間の容積差を比較した.統計解析にはMann–Whitney U testを用い,有意水準は5%とした.
  • 結果:tDCS介入効果は8名で確認され,群間における半球間の容積差の比較ではSMAでのみ有意な差が認められ,効果あり群は効果なし群に比べ半球間の容積差が少ないことが示された.
  • 結論:本研究の結果,SMAの半球間差が少ない患者において,介入効果が認められた.tDCSは,刺激部位直下の皮質興奮性を変化させることから,脳卒中患者において刺激部位の灰白質が残存している場合に介入効果が認められる可能性が示唆された.よって,予め介入部位の灰白質容積を算出することで,tDCSの介入効果のバラつきを最小化できる可能性が示唆された.今後は,さらに様々な機能や介入効果と脳構造との関連を検証していく.

【文献抄読】

担当:小川さん

タイトル:An airway-to-brain sensory pathway mediates influenza-induced sickness

出典:Bin et al., Nature, 2023, 615(7953):660-667. doi: 10.1038/s41586-023-05796-0

  • 背景:病原体感染は,ニューロンによって組織化された行動や生理学的変化を伴い,定型的な発病状態を引き起こす.感染すると,免疫細胞はサイトカインやその他のメディエーターを放出し,その多くはニューロンによって検出される.しかし,自然感染時に発病行動を引き起こす神経回路や神経免疫相互作用のメカニズムについては,依然として不明な点が多い.そこで筆者らは,末梢感覚ニューロンのアトラスを広くカバーする遺伝学的ツールを用いて,マウスのインフルエンザ誘発性発病行動に不可欠なPGE2を検出する舌咽頭感覚ニューロン (舌咽頭GABRA1ニューロン) の小集団を同定した.
  • 方法:舌咽頭GABRA1ニューロンの切除,あるいはこれらのニューロンにおけるPGE2受容体3 (EP3) の標的化ノックアウトを行い,インフルエンザによって誘発される発病行動をモニターした.また,遺伝子誘導による解剖学的マッピングを用いて,末梢から中枢までのインフルエンザ誘発性発病行動を媒介する経路を調べた.
  • 結果:舌咽頭GABRA1ニューロンの切除・PGE2受容体3 (EP3) の標的化ノックアウトは,インフルエンザによって誘発される初期感染期の摂餌量,摂水量,運動量の減少をなくし,生存率を改善した.また,鼻咽頭GABRA1ニューロンは,感染後にシクロオキシゲナーゼ-2の発現が増加する鼻咽頭粘膜領域に投射すること,また脳幹において特異的な軸索標的パターンを示すことが明らかになった.
  • 考察・結論:局所的に産生されたプロスタグランジンを検出し,呼吸器ウイルス感染に対する全身の病気反応を媒介する,一次的な気道から脳への感覚経路が明らかになった.病気に至る感覚経路の多様性と,病原体感染によってそれらがどのような場合に関与するかを 理解することは,より良い治療的介入を可能にするかもしれない.