1/22 勉強会

【研究報告】

担当:藤井先生

タイトル:小動物体外循環モデルの確立と、全身性炎症反応と酸化ストレスの評価

  • 目的:体外循環は血液ポンプで血液を脱血し,人工肺で血液を酸素化することで患者の呼吸・循環を代行し生命を維持するもので,近年,Extracorporeal membrane oxygenation (ECMO)の適応は心臓外科,呼吸循環,心肺蘇生など多岐にわたりつつある.しかし,血液と異物が接触すると炎症反応が惹起されることが知られている.また,体外循環中の非生理的な高酸素管理が活性酸素種発生させ全身性炎症反応を助長していると考えられる.体外循環中の全身性炎症反応と酸化ストレスの関連性およびメカニズム解明を目的に研究を行った.
  • 方法:SDラットを用い,V-A ECMOモデルを確立し, V-AECMO開始前,開始後から60分,120分の間隔で1.採血を行い,血液ガス分析を行った.加えて,血中のサイトカイン濃度,酸化の指標であるdiacron-Reactive Oxygen Metabolites(d-ROMS),抗酸化力の指標であるBiological Antioxidant Potential(BAP)を測定し関連性を分析した.実験終了後,主要臓器を採取しスーパーオキサイドの検出が可能であるDHE染色を行い,臓器局所での活性酸素種発生を評価した.
  • 結果:300 mmHgを超える高酸素状態では,血中の炎症性サイトカインが増加し,さらに,活性酸素の一種であるスーパーオキシドの発生が肺や肝臓で著しいことが観察された.また, 酸化の指標であるd-ROMS,抗酸化力の指標であるBAPを分析すると、体外循環において抗酸化力が著しく失われ,総合的に酸化ストレスが上昇している結果となった.
  • 結論:ラット体外循環モデルを用い, 全身性炎症反応と酸化ストレスの関連性についてフォーカスをあて研究を行った.300mmHgを超える高酸素状態で著しく,炎症性サイトカインの上昇と,抗酸化力低下を伴う酸化ストレスの上昇が観察された.今後,炎症反応および酸化ストレスと上昇の予防策の提案やメカニズムの解明に向けて研究を継続していく予定である.

【文献抄読】

担当:長尾さん

タイトル:Age-related dysregulation of homeostatic control in neuronal microcircuits

出典:Radulescu et al., Nat. Neurosci., 2023, 26(12):2158-2170. doi:10.1038/s41593-023-01451-z

  • 背景:ニューロンの恒常性は神経活動の亢進や低下を防ぐ.加齢に伴う神経活動の亢進は恒常性の調節不全によって引き起こされていることが示唆される.しかし,加齢に伴う神経活動亢進を防ぐ可塑性メカニズムとこれが年齢によってどのように変化するのかは不明である.本研究の目的は感覚の過剰刺激に誘発される神経活動の亢進を用いて皮質の可塑性反応を特定し,この可塑性が年齢とともにどのように変化するかを調べることとした.
  • 方法:カルシウムを介した細胞/シナプス活動の生体内二光子イメージング,電気生理学,c-Fosタグ付けを用いて視覚的過剰刺激による視覚野ニューロン活動の制御を若年マウス,高齢マウスにおいて調べた.また,過剰刺激が認知機能に与える影響も調べた.
  • 結果:若年マウスの皮質ではmGluR5依存性の興奮性シナプスの弱化と抑制性シナプスの形成によって過剰刺激後の皮質活動が低下する.加齢によってこれらメカニズムが下方制御され,高齢マウスの過剰刺激はシナプスを強化し,活動の亢進を引き起こす.さらに,過剰刺激は高齢マウスでは認知機能を低下させる.
  • 結論:特定の可塑性メカニズムが加齢に伴うニューロン微小回路恒常性の調節不全によって機能しなくなり,過剰刺激に対する加齢に伴う反応が認知能力に影響を与える可能性がある.