下門講師らの研究論文が国際誌「Journal of Biomechanics」に採択されました!

研究内容の概要】

水泳では水という流体に対して運動量を与え,その反作用によって推進力を得ています.従って,スイマーの動作に伴って生じる水の流れから,推進のメカニズムを理解することができます.しかしながら無色透明な水を,肉眼やカメラで観察することは非常に困難です.そこで,流れを可視化する流体力学分野の手法である粒子画像流速計測法を用いて,実験用回流水槽(流水プール)において,水中ドルフィンキック泳法で,泳ぐスピードを変化させた際に水の流れがどのように変化しているのかを調べました.

その結果,水中ドルフィンキックの下肢動作において,泳ぐスピードが上がるにつれて水の流れの速度が増大し,キック中により強い渦が生成され,推進力が増加する要因となっている可能性が示されました(図1).

図1. 泳ぐスピードと脚の動きの変化

また,蹴り下ろし動作から蹴り上げ動作に移行する局面で,蹴り下ろしで生成された流れを再利用する現象が観察され,この現象は泳ぐスピードが上がるにつれて顕著になりました(図2).

図2.蹴り下げ動作から蹴り上げ動作に切り替わる局面での現象

本研究は,キック泳中の泳ぐスピードを変化させた際の水の流れの変化を観察した初めての研究です. 本研究は指導者がキック泳を教える上での科学的根拠を提供することに加え,水泳研究で重要とされる水の流れに関する研究を加速させることが期待されます.

研究者からのコメント】

ヒトの泳運動には不明な点が多く,どうやって推進しているのか十分に説明できていませんでした.我々はキック動作に着目して研究しており,今回の成果によって,キック泳速度をコントロールするためには単に水を力強く蹴れば良いという訳ではなく,けり下ろしでできた水流をけり上げで再利用することが速く泳ぐためのコツであることが分かりました.本学ではオリンピック選手も輩出しており,指導者からヒントを得て研究が進むこともあり,今回の成果もコーチング現場に還元して,学内で協力体制を築いてパフォーマンス向上を目指しています.

本研究成果のポイント】

キック泳で速く泳ぐためには,単純に力強く水を蹴るのではなく,切り返しで水流を利用することが重要であることが分かりました.

原著論文情報: Nakazono Y, Shimojo H, Sengoku Y, Takagi H, Tsunokawa T. Impact of variations in swimming velocity on wake flow dynamics in human underwater undulatory swimming. Journal of Biomechanics. 165 (2024). DOI: 10.1016/j.jbiomech.2024.112020