11/11勉強会

【研究報告】

担当:小宮先生

タイトル:車椅子バスケットボール競技車での駆動時の肩関節周囲筋の筋シナジー解析

  • 背景・目的:車椅子バスケットボールへの参加は,心理健康状態への利点も多い.一方,上肢障害の発生が多いことが知られている競技でもあるため,障害予防への対策が必要となる.特に車椅子駆動動作は頻回に用いられる動作であり,どのような関節運動や筋肉の活動が行われているかを知ることは重要であるが,筋の働きを協調的に捉える試みはされていない.本研究では,筋の働きを協調的に捉えることが可能な筋シナジー解析を用いて,車椅子バスケットボール競技車での車椅子駆動時の筋の協調的な働きを明らかにする.
  • 方法:対象は健常成人12名とし,利き手側上肢10筋に対してワイヤレス筋電図を貼付.20 mの最大努力下での駆動動作時のタイムとその際の10サイクル分の筋活動を記録.得られた10サイクルの筋活動を用いて筋シナジー解析を実施.
  • 結果:車椅子駆動時には,前方の推進力の生成に関与する筋シナジー,プッシュ相からリカバリー相への円滑な移行に関与する筋シナジー,リカバリー相で上肢の後方移動に関与する筋シナジー,リカバリー相からプッシュ相早期の肩甲帯の安定化に関与する筋シナジーと考えられる4つの筋シナジーが存在することが明らかとなった.
  • 結論:リハビリテーションやトレーニング時にはこのシナジーごとに関与する筋群を意識する必要がある.上肢傷害を有する対象との比較を行うことでさらに障害予防に関する知見が深まると考えている.

【文献抄読】

担当:渡辺さん

タイトル:The basolateral amygdala-anterior cingulate pathway contributes to depression-like behaviors and comorbidity with chronic pain behaviors in male mice

出典:Becker et al., Nature Communications, 2023, 14:2198. doi:10.1038/s41467-023-37878-y

  • 背景:うつ病と慢性疼痛は,高確率で併存する有害な疾患であり,世界的に問題になっているが,有効な治療法は未だ明らかにされていない.前部帯状皮質(ACC)は情動と痛みの処理をおこない,疼痛とうつの併存に重要な役割を果たすと考えられている.また扁桃体外側基底核(BLA)はACCと密で直接的な結合をすることが明らかにされており,BLAとACCを繋ぐ経路が,痛みとうつに大きく関わるのでは無いかと考えられる.以上のことから本研究の目的は,BLAとACCを繋ぐ経路が,慢性疼痛とうつ病に関与するのかを,マウスを用いて明らかにすることとした.
  • 方法:マウスの坐骨神経損傷Cuffモデルを作成し,トレーサーを用いたBLA-ACC経路の神経活動を調べた.また,健常マウスのBLAにAAV5-CamKIIa-ChR2-EYFPを注入し,ACCで光刺激を行った際の行動実験を行った.
  • 結果:末梢神経損傷モデルでは,ACCに投射する損傷同側BLAニューロンの神経活動が亢進していた.また,健常マウスにおいてBLA-ACC経路を光遺伝学的に反復活性化すると,うつ様行動が誘発された.一方で,同経路を光遺伝学的に抑制しても,うつ様行動は変化しなかった.
  • 結論:BLA-ACC経路は,慢性疼痛状態におけるうつ病に関与し,ACCへの異なる領域からの求心性入力や,BLAから別の皮質への経路が,異なる情動反応の制御をする可能性がある.末梢神経損傷モデルにおいて異常な活動を示したBLA-ACC経路を抑制することで,うつ様行動を軽減できる可能性がある.