11/25勉強会
【研究報告】
担当:山本先生
タイトル:三者の協調:対称性ホップ分岐理論節周囲筋の筋シナジー解析
- 概要:二者以上が協調して動くことを共同行為 (joint action)という.この共同行為には,一緒に机を移動させるような課題を共有し,課題を遂行するために知覚も共有される「計画された協応 (planned coordination)」と,突然の降雨で雨宿りの場所に人々が一斉に集まるような「創発する協応 (emergent coordination)」がある.後者に関しては,同期現象 (synchronization) として,二つの,あるいは多数の振動子が連結することによって,相互同期あるいは引き込みが生じ,位相が同期するという連結振動子モデル (coupled oscillation model)で説明されてきた.ヒトの運動においても,両指の指振り同期がモデル化され,二者間協調の説明にも拡張されてきた.しかしながら,三体問題同様,三者の協調に関してはこの連結振動子モデルでは解くことができない.
- そこで,援用するのが対称性の破れで,従来から四足動物の歩容の変化を4連結振動子の対称性の破れによる位相ずれから説明したのが,対称性ホップ分岐理論である.理論の詳細は省略するが,対称性の破れ方によって同期パターンを群論から予測できるというものである.この理論を援用して,「鳥かご」とも呼ばれるサッカーにおける3対1のボール保持課題における三者の動きを解析すると,上級者は対称性が高い,三者が少しずつ位相遅れが生じる回転パターン,初級者は対称性が低く,一人だけがボールを追う動きを行い,残りの二者は動かず結果的に逆位相(片方の角度が広がり他方が狭まる)になる部分逆位相パターンになることが明らかになった.
- この上級者と初級者の違いを,「見えない力 (social force)」として,決められた空間に留まろうとする「空間力」,敵から逃げようとする「回避力」,三者が同じ距離を保とうとする「協調力」の3つの力で表現する数理モデルを構築した.その結果,初心者の振る舞いは「協調力」の欠如によるものであることが数値実験から明らかになった.
- この結果を受け,この「協調力」をゴムバンドで実装し,小学生の3対1のボール保持課題で試したところ,ゴムバンドを装着すると上級者と同じような振る舞いが生じることが分かった.
- さらに,3つから6つまでの円状に配置された輪に3人が入り,一斉に左右どちらかに跳躍する課題を行わせたところ,輪の数,すなわち輪の配置の対称性の違いによって,最初に飛び出すリーダーが異なることを明らかにした. これらのことから,意図を共有しながらも,シナリオのない三者の協調においては,対称性のホップ分岐理論による説明が可能であることがわかるとともに,三者の協調パターンの多様性が示された.つまり,三者協調の研究は,集団の最小単位として,集団における個の行動を決定する過程を明らかにする興味深い対象であることを示唆する.
- 出典:Yokoyama, K. & Yamamoto, Y. (2011) Three people can synchronize as coupled oscillators during sports activities, PLoS Computational Biology, 7, e1002181.
- Kijima, A., Shima, H., Okumura, M., Yamamoto, Y., & Richardson, M. J. (2017) Effects of agent-environment symmetry on the coordination dynamics of triadic jumping, Frontier in Psychology, 8, 3.
- Yokoyama, K., Shima, H., Fujii, K., Tabuchi, N., & Yamamoto, Y. (2018) Social forces for team coordination in ball possession game, Physical Review E, 97, 002400.
- Yokoyama, K., Tabuchi, N., Araujo, D., & Yamamoto, Y. (2020) How training tools physically linking soccer players improve interpersonal coordination, Journal of Sports Sciences and Medicine, 19, 245-255.