5/12勉強会

【研究報告】

担当:田邊かこさん

タイトル:異なる刺激周波数を用いた経皮的耳介迷走神経刺激が手指の体性感覚機能に及ぼす影響

  • 目的:脳卒中患者のリハビリテーションに経皮的耳介迷走神経刺激(taVNS)を併用すると,その効果が促進される.近年,脳卒中後の体性感覚機能障害に対し,taVNSが有効であることが示され始めているが,用いられる刺激パラメーター(刺激周波数,パルス幅など)は研究間で非常に多岐に渡り,体性感覚機能を向上させる最も効果的な刺激パラメーターは明らかにされていない.そこで,体性感覚機能を向上させる最適な刺激パラメーターを明らかにするための第一の実験として,本研究の目的を,「異なる刺激周波数を用いたtaVNSが手指の体性感覚機能に与える影響を明らかにすること」とし,実験を行った.
  • 方法:対象は健常成人30名である.刺激は,taVNS刺激(30,25,20Hz条件)と左耳朶への偽刺激(30Hz)の4条件とした.刺激強度は痛覚閾値よりも-0.1mA低い値,パルス幅は100 µs,刺激時間は15分間の連続刺激とした.体性感覚機能評価は,二点識別覚機能(2PD)検査とした.2PD評価は,taVNS前,刺激直後,刺激終了後20分に行い,得られた回答率から50%の確率で二点と回答した間隔(2PD閾値)を算出した.2PD閾値の比較は反復測定二元配置分散分析を行い,事後検定はボンフェローニ法を用いた.
  • 結果:統計解析の結果,30,25,20Hz条件のtaVNSは刺激前後で体性感覚機能を変化させなかった.
  • 結論:30,25,20Hzの刺激周波数と,痛覚閾値より0.1mA低い刺激強度,100 µsの刺激設定を組み合わせた15分間のtaVNSは,手指の体性感覚機能に影響を及ぼさないことが示唆された.

【文献抄読】

担当:萩野由大さん

タイトル:Dissecting Mismatch Negativity: Early and Late Subcomponents for Detecting Deviants in Local and Global Sequence Regularities

出典:Huang et al., eNeuro 11(5): ENEURO.0050-24.2024, 2024. doi: 10.1523/ENEURO.0050-24.2024

  • 背景・目的:Mismatch Negativity(MMN)は,予測と異なる刺激に対して生じる予測誤差信号として広く知られ,感覚処理や統計的学習の神経マーカーとされている.これまでの研究では主にtone-to-toneの局所的な規則性に基づくMMNが注目されてきたが,実際の刺激環境にはより長期的・高次の大域的予測も含まれる.MMNがこうした複数階層の予測誤差に応答する複合的構造を持つという仮説に基づき,本研究では局所および大域的規則性を独立に操作し,それぞれに対応するMMNサブコンポーネントの同定を試みた.
  • 方法:健常成人30名に対して,tone-to-toneの遷移確率(TP)と音列全体の出現頻度(SP)を独立に操作したlocal–global oddball課題を提示し,64チャンネルEEGを記録した.各条件でERP差分波(xxy–xxx)からMMNを算出し,3次元テンソル(チャネル×時間×条件)に対し並列因子分析(PARAFAC)を適用してサブコンポーネントを抽出.さらに,予測符号化モデルを用いて,各サブコンポーネントが局所(PE1)および大域(PE2)の予測誤差に対応しているかを定量的に検証した.
  • 結果・結論:前頭中央における早期成分(136ms)は局所予測誤差を,前頭部の後期成分(200ms)は大域予測誤差を反映していた.MMNは階層的予測誤差を反映する複合構造を持ち,臨床応用への可能性が示唆された.