5/19勉強会

【研究報告】

担当:巻渕泰輝さん

タイトル:Centrifugal mechanismは体性感覚・聴覚処理に及ぼす効果は異なる

  • 背景・目的:随意運動中には,膨大な感覚情報を処理する必要があり,その過程ではcentrifugal mechanism(トップダウン調節)による感覚処理の調節が重要である.この調節機構には,運動関連領域(M1・PMA・SMAなど)から感覚皮質へのefference copyやcorollary dischargeが関与することが知られている.これまでの研究では,体性感覚と聴覚の両モダリティにおいてcentrifugal mechanismが機能することが示唆されているが,モダリティ間の効果の比較は十分に行われていない.そこで本研究の目的は,「随意運動が体性感覚誘発電位(SEP)および聴覚誘発電位(AEP)に与える影響を比較し,centrifugal mechanismがモダリティ依存的に異なる効果を示すかどうかを検討すること」とした.
  • 方法:対象は健常成人45名とし,体性感覚刺激(右手示指への電気刺激)および聴覚刺激(両耳への純音刺激)のそれぞれに対して,運動課題・注意課題・安静課題の3条件を実施した.脳波はCz電極で記録し,SEP(P100, N140)およびAEP(N1, P2)成分を抽出した.また,運動条件と注意条件の差分波形を算出し、モダリティ間の比較を行った.
  • 結果:運動条件では,SEPのP100および N140,ならびにAEPのN1成分の振幅が有意に増大した.また,差分波形の振幅は,聴覚モダリティよりも体性感覚モダリティで有意に大きいことが確認された.
  • 結論:ボタン押し課題の文脈において,随意運動に伴うcentrifugal mechanismによる利得増強効果は体性感覚モダリティでより顕著に生じた.この結果には,刺激と運動の関連性の高さが感覚処理の調節に影響を与える可能性が考えられる.

【文献抄読】

担当:北野侑さん

タイトル:Six weeks of localized passive heat therapy elicits some exercise-like improvements in resistance artery function

出典:Kaluhiokalani et al., J Physiol Online ahead of print, 2024. doi: 10.1113/JP286567

  • 背景・目的:血管機能の改善に長期的なトレーニングや温熱処置は有効であることが報告されているが,局所の温熱刺激が運動により得られる効果と同様の効果をもたらすかは明らかでない.6週間にわたる局所的な受動温熱療法が,抵抗動脈機能,運動血行動態,運動パフォーマンスに及ぼす影響を膝伸展トレーニングと比較して検証する.
  • 方法:健常成人34名を局所温熱療法群 (PHT),温熱療法を行わない群 (SHAM),運動群 (EX)の3群に分け,週3回6週間の介入を行った.介入前後では膝伸展受動運動および段階運動負荷試験時の血管コンダクタンス,血管拡張因子マーカー・血管新生マーカー・毛細血管密度を評価するための筋生検が行われた.
  • 結果・結論:介入後,EX群は血管コンダクタンス,血管拡張因子マーカー,血管新生マーカーの増加による血管機能の改善および運動パフォーマンスの向上がみられたが,PHT群は血管コンダクタンスおよび血管拡張因子マーカーの増加のみみられた.局所温熱療法は運動による適応の一部を模倣するが,すべてを模倣しないことが示唆された.