5/26勉強会

【研究報告】

担当:井上達朗先生

タイトル:高齢心不全患者における食事開始遅延とHAD発症リスク:IPTWを用いた全国入院データ解析

  • 背景・目的:高齢者の入院後ADL低下(Hospital-Associated Disability: HAD)は,栄養状態や食事開始の遅れと関連することが知られている.本研究では,全国のDPCデータを用い,高齢心不全患者における入院後の食事提供の遅れがHADや続発症に与える影響を明らかにすることを目的とした.
  • 方法:日本のDPCデータを用いた後ろ向き観察研究.対象は心不全(ICD-10: I50.0, I50.1, I50.9)で入院した65~99歳,NYHA分類II以上の患者.食事未開始群(入院3日間すべて経口摂取なし)と対照群(3日以内に食事開始)で比較.傾向スコアによるIPTWを用い,HAD(退院時Barthel Indexが入院時より低下)をアウトカムとした.
  • 結果:食事未開始群61,951名,対照群2,379名.IPTWを用いたロジスティック回帰では,食事開始の遅れがHAD(OR: 1.50–1.93)および続発症に対して有意なリスク因子となった.
  • 結論:高齢心不全患者において,食事開始の遅れはHADや続発症の独立したリスク因子の可能性がある.

【文献抄読】

担当:福山夏未さん

タイトル:Menthol alleviates post-race elevations in muscle soreness and metabolic and respiratory stress during running

出典:Fujii et al., Eur J Appl Physiol 124(8): 2473-2487, 2024.  doi: 10.1007/s00421-024-05463-w

  • 背景・目的:中長距離レースの連戦は,筋肉痛や呼吸・代謝負荷の増加を引き起こし,パフォーマンスの低下を招く可能性がある.そこで本研究では,レース後に4%メントールを下腿部に塗布することで,筋肉痛や生理的・主観的応答が緩和されるかを検討した.
  • 方法:長距離ランナー11名を対象に,1500mおよび3000mレース後,4%メントール(Post-race menthol)またはプラセボ(Post-race placebo)を下腿部に塗布するランダム化クロスオーバー試験を実施した.さらに,レースに参加していない状態でのプラセボ塗布(No-race placebo)条件も設けた.評価項目には,スクワットおよび前屈時の筋肉痛,主観的熱感覚・快適性,主観的運動強度,酸素摂取量,呼吸換気量,心拍数,ジャンプパフォーマンス(CMJ・SJ)などが含まれた.
  • 結果・結論:レース後のプラセボ塗布では筋肉痛や代謝・呼吸負荷が増加したが,メントール塗布ではこれらの反応が有意に抑制された.これらの結果から,メントールによる冷感刺激およびTRPM8チャネルの活性化が,感覚的および自律神経的なストレス応答を緩和し,回復を促進する可能性が示唆された.メントールは,特に夏季における連戦後の回復支援手段として有用であると考えられる.