6/2勉強会
【研究報告】
担当:横田裕丈先生
タイトル:経皮的耳介迷走神経刺激(taVNS)が単純・選択反応時間に及ぼす影響
- 背景・目的:身体運動を伴うダイナミックな反応時間においては,交感神経および副交感神経活動と関連するノルアドレナリン(NA)およびγ-アミノ酪酸(GABA)の関与が指摘されている.本研究では,脳内のNAおよびGABA濃度を上昇させることが可能な経皮的耳介迷走神経刺激(transcutaneous auricular vagus nerve stimulation:taVNS)が,認知負荷の異なる反応課題に及ぼす影響を検討した.
- 方法:対象は右利きの健常大学生17名(女性9名)とした.tVNS : NEMOS (Cerbmed, Germany)を用い,安静座位にて15分間のtaVNSを実施した後,FITLIGHT®を用いた反応課題を行った.反応課題は,立位にて1つの標的にリーチする単純反応課題と,ランダムに発光する8つの標的にリーチする複雑反応課題の2種類とした.尚,プロトコルを通じて心電図波形を3点誘導法により計測した.刺激条件は,左耳介にtaVNSを行うActive条件と,耳朶に対するSham条件の2条件で,25 Hz, 250 µsの矩形波を用いて0.1 mAごとの階段法により感覚閾値を同定し,その強度にて3秒on/7秒offのサイクルで刺激を与えた.交感神経活動の指標として心拍数,および,得られた心拍波形から自律神経活動指標(LF/HF)を最大エントロピー法を用いて解析した.
- 結果:左手の複雑反応課題において条件間の交互作用が認められ,Sham条件に比べてActive条件で有意な反応時間の短縮が見られた(p = 0.007).また,左手の複雑反応課題における反応時間の変化量とLF/HF比の変化量との間に有意な負の相関が確認された(r = -0.527,p = 0.03).
- 結論:taVNSは,認知負荷の高い複雑反応課題において,非利き手の反応時間を有意に短縮させる効果を示した.この効果は交感神経活動の変化と関連しており,taVNSが自律神経系を介して認知運動機能の向上に寄与する可能性が示唆された.
【文献抄読】
担当:川村瞭さん
タイトル:Active touch in tactile perceptual discrimination: brain activity and behavioral responses to surface differences
出典:Fischer H et al., Exp Brain Res 243(4): 84, 2025. doi: 10.1007/s00221-025-07034-7B3
- 背景・目的:ヒトの触覚は,物体の質感や形状を認識するための重要な感覚です.特に,自ら対象に触れて探索する能動的触覚は,受動的に触れられる場合とは異なり,感覚系と運動系の両方が関与する実世界に近い相互作用である.本研究は,この能動的触覚を用いて表面の質感を識別する際の,神経メカニズムを,fMRIを用いて明らかにすることを目的とする.特に,識別課題の難易度を段階的に変化させ,それに伴って脳活動パターンがどのように変化するのかを検討する.
- 方法:15名の健常な右利きの女性が実験に参加した.参加者は,波長の異なる3種類のしわのある表面(S20, S60, S100)と滑らかな表面(S0)のペアを能動的に触り,質感が同じか異なるかを判断した.課題は比較するペアによって「最も易しい」(S0-S100),「中程度」(S20-S100),「最も難しい」(S60-S100)の3段階の難易度を設定した.
- 結果・結論:行動データでは,最も易しい課題で識別能力が有意に高かった.fMRIデータでは,課題の難易度が上がるにつれて脳活動のパターンが動的に変化することが示された.易しい課題では両側の頭頂葉や前頭葉など広範な領域で活動が見られたが,最も難しい課題では活動が主に右前頭葉に集中した.これは,難しい触覚課題を遂行する際には,注意や意思決定など高次の認知機能を担う右前頭葉への依存度が高まることを示唆している.