6/30勉強会

【研究報告】

担当:黒崎純暉さん

タイトル:動作語/動作画像の理解が嚥下と発声に与える影響

  • 背景・目的:発声および嚥下は共通の解剖学的構造を用いるが,同時には実行できない相反する動作である.両者の関係性が崩れることで誤嚥が誘発されるため,これらを適切に切り替えるための精密な神経制御が不可欠である.本研究では,発声と嚥下の神経制御機構に着目し,動作語および動作画像の理解によって脳内に相互抑制関係が存在するかを,行動指標を用いて検証することを目的とした.また動作語,動作画像によって発声と嚥下の反応が変化するかを検証した.
  • 方法:対象は健常成人30名とした.手・嚥下・発声・偽の4種類の動作語および動作画像を用いたGo/No-Go課題を実施し,嚥下および発声の反応時間と正答率を行動指標として評価した.条件は①動作語発声,②動作語嚥下,③動作画像発声,④動作画像嚥下の4条件とした.被験者はこれらの条件にランダムな順序で参加し,意味のある語または正しい行為を示す画像が提示された場合のみ,発声または嚥下をできるだけ速く行うよう指示された.嚥下反応は表面筋電図により,発声反応は実験用ボイスキーにより記録した.各条件における動作語・動作画像群ごとに,平均反応時間および正答率を算出し,統計解析を行った.
  • 結果:反応時間には全条件で有意差は認められなかった.一方,正答率にはすべての条件において有意差が認められ,特に手に関する動作語および動作画像の提示後において,嚥下および発声課題の正答率が有意に低下した.
  • 結論:嚥下と発声の間の相互抑制関係は確認されなかったが,手に関する動作語および動作画像の理解がその後の嚥下・発声反応の正確性に影響を及ぼすことが示唆された.

【文献抄読】

担当:石垣智恒先生

タイトル:Relationship Between Structure and Age in Healthy Achilles Tendons

出典:Seymore et al., J Orthop Res 43(7): 1250-1258, 2025. doi: 10.1002/jor.26080

  • 背景・目的:加齢は様々な筋骨格系変性の危険因子である.腱障害では,加齢による変化と障害による変化の類似点は多い.加齢に伴う腱構造の多様性を理解することは,加齢変化と障害に伴う変化を区別するために重要である.そこで本研究の目的は,正常腱における構造と年齢との関連性を明らかにすることとした.
  • 方法:8~79歳までの389名(18歳未満:24名,18歳以上:365名)を対象に,健常者の右下肢もしくは片側アキレス腱症患者の健側から収集したデータを解析に用いた.計測項目は,アキレス腱の全長・外部腱長・横断面積・厚さ・弾性率・粘性であった.性別・身長・体重・活動量の影響を調整した線形回帰分析を用いて,アキレス腱構造と年齢との関連を統計学的に検討した.
  • 結果・結論:年齢の増加に伴い,アキレス腱の外部腱長・腱横断面積・厚さ・粘性が増加した.18歳未満のみで解析した際には,年齢の増加に伴い腱横断面積は減少した.本研究結果から,加齢に伴う腱の外部腱長・横断面積・厚さ・粘性の増加が,高齢者における弾性エネルギーの蓄積や伝達能力を変化させる要因である可能性が示された.粘性は腱水分量の減少に伴い増加し,腱障害患者では腱内水分量が増加する.それゆえ本研究結果は,腱内水分量の増加が腱の加齢変化と変性とを分ける要因になっていることを示唆する.