7/7勉強会

【研究報告】

担当:齋藤大河さん

タイトル:一次体性感覚野に対する高精細経頭蓋直流電流刺激が運動学習および短潜時求心性抑制に及ぼす影響

  • 背景・目的:運動学習には,一次運動野のみならず一次体性感覚野(S1)も重要な役割を果たすと考えられており,運動学習中にS1の興奮性を増大させる刺激を行うと運動学習が向上する可能性がある.短潜時求心性抑制(SAI)は,S1の興奮性に依存した抑制現象であり,その抑制程度は,運動学習率と相関関係にある.そこで本研究では,皮質に高い焦点性で電界を発生させることが可能な高精細経頭蓋直流電流刺激(HD-tDCS)を用いて,S1に対するHD-tDCSが運動学習とSAIに及ぼす影響を明らかにすることとした.
  • 方法:対象は健常成人60名とし,ランダムに二群(刺激群,偽刺激群)に振り分けた.運動課題は右示指外転張力制御による視覚追従課題とし,30秒間の課題を10回行った.HD-tDCSは1個の陽極電極(C3,CP3間)と4個の陰極電極(C1,C5,P1,P5)を用い,S1に対して運動課題中に実施した(刺激強度:1 mA).SAIは右正中神経刺激と左一次運動野への磁気刺激を用い(刺激間隔:N20潜時+2 ms),運動課題前後で計測した.また,合わせて一次運動野の興奮性(single-MEP)と一次運動野内の抑制機能(SICI)も運動課題前後で計測した.
  • 結果:視覚追従課題の成績は両群で向上したが,群間差は認められなかった. SICIは,視覚追従課題前と比較して課題直後の抑制度合いが有意に減弱した.SAIは両群で課題による変化が認められなかった.
  • 結論:本研究により,一次体性感覚野に対するHD-tDCSは運動学習およびSAIを変化させないが,視覚追従課題直後のSICIを減弱させることが示唆された.

【文献抄読】

担当:井上創太さん

タイトル:Neurons for infant social behaviors in the mouse zona incerta

出典:Li et al., Science 385(6707): 409-416, 2024. doi: 10.1126/science.adk7411

  • 背景・目的:ヒトを含む哺乳類は,生まれながらにして母親との信頼関係を築くことが知られており,この関係は乳児の苦痛緩和や学習促進といった行動に重要な役割を果たす.一方で乳児がどのように母親を識別し,安心感や学習といった行動へと変換しているのか,その詳細な神経基盤は明らかになっていない.不確帯(Zona Incerta, ZI)は,複数の感覚入力を統合する中継領域であることが知られ,発達早期に一時的な投射パターンを形成することが示唆されている.そこで,筆者らは不確帯に存在するソマトスタチン陽性ニューロン(ZISST)に着目し,この神経集団が母親との社会的相互作用にどのように関与しているかを明らかにすることを目的としている.
  • 方法:生後16-18日の離乳前のマウスを用いて,ファイバーフォトメトリー法によりZISSTニューロンのカルシウムイオンの活動を記録した.また,ZISSTニューロンの興奮性を化学遺伝学的・薬理学的手法で操作し,マウスの苦痛反応やストレスホルモン,匂いに対する学習行動を評価した.最後に順行性・逆行性トレーシング法を用いて,ZISSTニューロンの入力元・出力先の脳領域を同定した.
  • 結果:ZISSTニューロンは,母親との接触に特異的に活動を増大させることが明らかになった.ZISSTニューロンの興奮性を高めた場合,苦痛反応が減少し,学習が促進された.一方でZISSTニューロンの活動を抑制した場合,苦痛反応を増加させ,学習を抑制した.さらに,神経回路解析の結果,ZISSTは視床や中脳などから多様な入力を受け取り,視床下部や扁桃体など多岐にわたる領域へと出力を行っていた.
  • 結論:ZISSTニューロンは,乳児期の母親との接触により特異的に活動し,その活動は乳児の母親に関連する安心・学習行動に対して必要かつ十分であることが示された.