8/4勉強会

【研究報告】

担当:佐藤慎之助さん

タイトル:捕手におけるボール捕球前のステップ動作が上肢キネティクスへ与える影響

  • 背景・目的:捕手が盗塁を阻止するために用いる送球技術の1つに,捕球前に左下肢(右投げの場合)を前方に踏み出すステップ動作がある.また,捕手は投手の次に上肢障害の発症率が高いと報告されているが,ステップ動作がパフォーマンス向上だけでなく障害予防の面で有用であるかは未検証である.そこで本研究は,捕球前のステップ動作が上肢キネティクスに与える影響について検証した.
  • 方法:右投げの健常成人男性捕手13名(捕手経験5年以上)を対象に,全身に反射マーカーを貼付し,被験者はステップ動作の有無でネットに向かって最大努力での送球を実施した.解析項目は捕球からボールリリースまでの動作時間(パフォーマンスの指標),肩内旋・肘内反モーメントのピーク値,肩関節内旋角速度のピーク値,球速を算出し,2条件で統計学的に比較した(有意水準5%).
  • 結果:動作時間について,ステップあり(0.76±0.06sec)はステップなし(0.83±0.06sec)と比較して有意に短縮した(p<0.01).肩内旋・肘内反モーメント、肩関節内旋角速度のピーク値と球速について,2条件間で有意な差を認めなかった(p > 0.05).
  • 結論:捕球前ステップ動作は捕手の上肢への負荷に影響を与えず,パフォーマンス向上を可能とする送球技術であることが示唆された.

【文献抄読】

担当:田宮創先生

タイトル:Effects of ischemic conditioning on microvascular reactivity to single passive limb movement in young adults: a pilot study

出典:Whitaker-Hilbig et al., Eur J Appl Physiol 125(6): 1653-1663, 2025. doi: 10.1007/s00421-025-05717-1

  • 背景・目的:下肢の単回受動運動(single passive limb movement:sPLM)は,運動に対する微小血管拡張反応の簡便かつ臨床的意義のある測定法である.微小血管の健康状態を改善する有望な刺激として虚血コンディショニング(IC)がある.本研究では,若年成人においてICを1回行うことでsPLMに対する微小血管反応性が改善するかどうかを検討した.
  • 方法:研究デザインは,盲検クロスオーバー無作為臨床試験とした.参加者はアイソキネティックダイナモメーターに座り,1Hzの周波数で受動的に膝を90°動かしながら,浅大腿動脈血流(LBF)を測定した.LBFの絶対的および相対的なピーク変化は,ベースラインからの差として計算された.ピークまでの時間は,sPLMの開始からLBFのピークまでの時間で計算した.曲線下面積(AUC)は,充血反応中のベースラインを上回るLBFの合計とした.ICでは,カフを利き手の大腿部に装着し,5分間膨張(225mmHg),5分間収縮を繰り返した(合計45分間).偽ICの場合は,カフを25mmHgまで膨張させた.ICの10分後にsPLM反応を再評価した.
  • 結果:12人が研究を完了した(年齢27±3歳,女性50%).安静時LBF,心拍数,性別をコントロールした場合,LBFの絶対的および相対的ピーク変化には交互作用効果がみられたが(p≦0.048),ピークまでの時間や総AUCにはみられなかった(p≧0.17).
  • 結論:本研究は,ICの急性発作がsPLMに対する血管拡張反応のピークを改善する可能性を示したが,これは微小血管系の「プレコンディショニング」による可能性がある.