8/18勉強会
【研究報告】
担当:佐藤来夢さん
タイトル:動員される手指や手関節角度の異なるグリップ動作が外反ストレス下での内側肘関節安定性におよぼす影響
- 背景・目的:野球選手の尺側側副靱帯(ulnar collateral ligament:UCL)損傷予防には,肘外反ストレスからUCLを保護することが重要である.グリップ動作による前腕屈曲回内筋群,特に浅指屈筋の収縮は内側肘関節安定性を向上させる.しかし,深層にある示指浅指屈筋と浅層にある中指浅指屈筋の機能的差異は不明である.また,グリップ動作中の手関節角度の影響は不明である.そこで本研究の目的は,示指または中指を除いたグリップ動作が内側肘関節安定性におよぼす影響および,手関節中間位,背屈位,掌屈位でのグリップ動作が内側肘関節安定性に与える影響を明らかにすることとした.
- 方法:右利き健常成人男性20名の非利き手にて全ての計測を行った.測定肢位は,座位にて肩関節60°外転,90°外旋,肘関節90°屈曲位でTelos装置に上肢を固定した姿勢とした.肘関節安定性として, 超音波画像装置を用いて安静時,60N外反ストレス負荷時,および60N外反ストレス中に最大強度の50%でグリップ動作を行った際の内側肘関節裂隙間距離(joint space,JS)を測定した.統計解析には一元配置反復測定分散分析またはFriedman検定と,事後検定にBonferroni法を用いた.有意水準は5%未満とした.
- 結果:JSは,全条件において安静時よりも外反ストレス負荷時に有意に増加し(全条件:p =0.001).グリップ動作時には外反ストレス負荷時よりも有意に減少した(全条件:p =0.001).グリップ動作の有無によるJS変化量は,示指なし条件では全指条件よりも有意に小さく(p =0.008),中指なし条件では他の条件との間に差を認めなかった(p >0.05).最大握力は,全指条件,示指なし条件,中指なし条件の順に小さくなった(p <0.05).全条件で,外反ストレス負荷時にJSは有意に増加し,グリップ動作によって減少した(全条件:p =0.001).しかし,掌屈条件でのみ安静時とグリップ動作時のJSの差は最小可検変化量を超えていた.JSの変化量は,中間位条件が最も大きく,次いで背屈条件,掌屈条件の順に有意に小さかった(中間位条件: p = 0.013, 背屈条件,掌屈条件: p = 0.005).最大握力は中間位条件が背屈条件,掌屈条件より有意に大きかった(p < 0.001).
- 結論:示指屈筋の動員がUCL損傷予防に貢献する可能性がある.掌屈位での投球はUCL損傷のリスク要因である可能性がある.
【文献抄読】
担当:玉越敬悟先生
タイトル:Exercise promotes the functional integration of human stem cell-derived neural grafts in a rodent model of Parkinson’s disease
出典:Moriarty et al., Stem Cell Rep 20(5): 102480, 2025. doi: 10.1016/j.stemcr.2025.102480B3
- 背景・目的:ヒト多能性幹細胞(hPSC)由来ドーパミン(DA)神経移植は,パーキンソン病(PD)モデル動物において運動症状を改善することが示されているが,胎児組織移植と比較するとドーパミン神経の割合や可塑性が低い点が課題となっている.運動は神経生存や可塑性を高めることが報告されており,本研究では,hPSC由来DA神経移植片の機能的統合に対する自発的運動の効果を明らかにすることを目的とした.
- 方法:6-ヒドロキシドーパミンによって片側中脳ドーパミン神経を損傷させたラットに対し,hPSC由来の腹側中脳ドーパミン前駆細胞を線条体(異所性)または黒質(同所性)に移植した.動物は自発的なホイール走行を行う群と行わない群に分け,アンフェタミン回転試験,シリンダー試験,調整歩行試験により運動機能を評価した.さらに,移植片および宿主脳組織を対象に,線維伸展,cFos発現,血管新生,神経栄養因子(BDNFおよびGDNF)の発現,ならびにMAPK-ERKシグナル活性化を解析した.
- 結果:異所性移植群では,運動によって運動機能の回復が加速し,特にシリンダー試験および調整歩行試験において顕著な改善が認められた.一方,同所性移植群では運動による改善は認められなかった.異所性移植に運動を組み合わせた群では,A9様ニューロンの割合が増加し,線条体内のドーパミン線維密度が上昇するとともに,宿主の中型有棘ニューロンにおけるcFos発現が増加した.また,運動は宿主線条体における血管新生を促進し,GDNFおよびBDNFの発現を高め,それに伴ってMAPK-ERK経路の活性化が観察された.さらに,GDNF欠損マウスでは運動による可塑性促進効果が消失し,この作用がGDNFシグナルに依存することが示唆された.
- 結論:自発的運動は,hPSC由来ドーパミン神経移植片の成熟と可塑性を高め,特に異所性移植において運動機能の回復を促進することが明らかとなった.この効果はGDNF/BDNF-ERKシグナルの活性化や血管新生を介した神経回路再構築による可能性が高く,今後のPD臨床試験において運動療法を組み合わせる意義を示す知見となる.