9/1勉強会
【研究報告】
担当:須貝菜央さん
タイトル:咬合バランス補正が神経行動応答に与える影響:単純と選択反応時間で検討
- 背景・目的:咬合は,脊髄機能や認知遂行機能を向上させるが,左右の咬合不均衡は筋発揮率や認知パフォーマンスを低下させる.しかし,咬合を均衡にすることで三叉神経入力が均衡かつ増大し,遠隔促通効果や認知遂行機能の向上に寄与するため,咬合補正は反応時間の短縮に寄与する可能性がある.よって,本研究の目的は,咬合補正が単純および選択反応時間に及ぼす影響を検討することとした.
- 方法:対象は,現在歯数28本以上かつ正常咬合を有する健常成人34名とした.被験者は,Dental prescaleⅡを使用し,算出された左右の不均衡率から5%未満を均衡群,5%以上を不均衡群とした.筋電図は両側のヒラメ筋(Sol)と咬筋に貼付した.咬合条件は,歯列の咬合接触がないNo-bite条件,コットンロールを左右の歯列の犬歯から第三臼歯に配置して適度に咬合するBalance条件とした.反応時間計測は,マットスイッチを使用し,光刺激を合図に30 cm前方へのステップ動作とした.単純反応時間は事前に咬合条件とステップ脚を指示し,光刺激を合図に反応した.選択反応時間は事前に咬合条件のみ指示し,左右の光刺激の方向に従った.疲労と順序の影響を考慮しランダムに実施した.解析項目は,Sol反応時間,離地時間,接地時間とした.統計は,対応のあるt検定を実施し,いずれも有意水準5%とした.本研究は,本学の倫理委員会により承認され,本学の倫理基準および1964年のヘルシンキ宣言およびその後の修正にしたがって実施された.
- 結果:単純反応時間は,Sol反応時間,離地時間,接地時間においてNo-bite条件と比較してBalance条件で有意に反応時間が短縮した(p < 0.01).群内比較は,均衡群および不均衡群は全項目で反応時間が短縮した(p < 0.05).Balance条件の咬筋筋活動量が高い人ほど接地時間が短縮した(r = -0.358,p = 0.038).選択反応時間は,全項目でNo-bite条件と比較してBalance条件で反応時間が短縮した(p < 0.01).群内比較は,不均衡群のみ全項目でNo-bite条件と比較してBalance条件で反応時間が短縮した(p < 0.05).Sol反応時間は,咬合不均衡率が高い人ほど反応時間が短縮した(r = -0.426,p = 0.012).
- 考察:咬合補正により単純および選択反応時間が短縮した要因は,三叉神経入力が均衡になったことで,遠隔促通効果や青斑核を効果的に活性化させた可能性がある.一方で群内比較の選択反応時間は,不均衡群で咬合補正の効果を発揮した.青斑核は逆U字の関係であり,適度な活性で最も効果を示すため,不均衡群は咬合補正により入力が均衡となり,青斑核を適度に活性化でき,反応時間が短縮したと考える.
【文献抄読】
担当:長坂和明先生
タイトル:Cerebrospinal fluid-contacting neuron tracing reveals structural and functional connectivity for locomotion in the mouse spinal cord
出典:Nakamura et al., Elife 12: e83108, 2023. doi: 10.7554/eLife.83108B3
- 背景:脳脊髄液接触ニューロン(CSF-cN)は脊髄中心管に沿って存在する感覚性ニューロンであり,ゼブラフィッシュでは体軸の屈曲を感知し,運動制御に関与することが知られている.しかし哺乳類における構造的特徴や結合様式,機能は不明であり,研究のための標識方法にも課題があった.
- 方法:マウスにおいて,アデノ随伴ウイルスを脳室内に注入し,PKD2L1発現を利用してCSF-cNを特異的に標識した.さらに,単一細胞標識とCUBIC透明化法による三次元解析,連続電子顕微鏡による超微細構造解析,光遺伝学と電気生理学による機能的結合解析,化学遺伝学的抑制による行動試験を行った.
- 結果:CSF-cNは腹側索に沿って吻側へ1800〜4800 μm伸長する無髄軸索束を形成し,中心管周囲へ戻る側枝を介して互いに再帰的結合を持つことが形態学的および超微細構造的に確認された.電気生理学的解析により,これらはGABA作動性抑制入力を介する機能的結合であることが実証された.さらに,CSF-cNは運動ニューロンやV2a介在ニューロンと結合し,運動回路に直接作用することが示された.行動試験では,CSF-cNを不活性化したマウスはトレッドミル走行で速度とステップ頻度が低下し,はしご歩行で踏み外しが増加した.
- 結論:マウスのCSF-cNは,互いに再帰的結合を形成し,運動ニューロンや介在ニューロンと接続することで,脊髄運動回路の活動を調節している.これにより適切な歩行速度や運動精度が維持される.CSF-cNは哺乳類においても運動制御に重要な役割を担うことが明らかになり,本研究で確立した標識・操作法は今後の機能解析に有用である.