9/8勉強会

【研究報告】

担当:山波克彰さん

タイトル:2週間の継続的深呼吸介入における頻度差が副交感神経活動・圧痛・情動に及ぼす影響

  • 背景・目的:慢性疼痛は世界人口の約3割が抱える問題であり,日本においても医療費負担の大きな要因となっている.従来の物理療法や徒手療法のみでは十分な効果が得られない場合が多く,認知・心理的要因に着目した介入が求められている.近年,深呼吸(Deep and Slow Breathing:DSB)は迷走神経を介して副交感神経活動を高め,鎮痛や抗不安効果をもたらす可能性が報告されているが,未訓練者においては過換気や覚醒亢進などのリスクも指摘されている.そのため,継続的な深呼吸の効果を検証する意義は大きい.
  • 方法:本研究では,健常大学生20名を対象に,2週間のDSB介入を実施した.参加者は1日10分間を14日間継続して行う群(DSB群)と,週1回のみ行う群(Control群)にランダムに割り付けられた.評価項目として,心拍変動による自律神経活動の解析,僧帽筋や大腿四頭筋など複数部位での圧痛閾値測定,唾液アミラーゼによるノルアドレナリン活動の指標,呼吸数や吸気/呼気比などの呼吸パフォーマンス,さらにSTAIやVASを用いた情動や呼吸快適性の評価を行った.統計学的には対応のあるt検定やWilcoxonの符号順位検定を用いて群間比較を行い,さらに各評価項目間の相関解析を実施した.
  • 結果:結果として,安静時の圧痛閾値や圧痛感受性については,継続的に介入を行ったDSB群では改善は認められず,対照群でのみ有意な増加や感受性の低下が確認された.また,深呼吸直前と直後の比較では両群で一部に有意な変化が見られたが,副交感神経活動や不安スコア(STAI)については明確な改善は示されなかった.
  • 結論:2週間という短期間の継続的DSB介入では,副交感神経活動や情動の明確な改善効果は得られなかった.一方で,低頻度の群で圧痛の改善が認められたことから,介入頻度や期間の設定が効果に大きく影響する可能性が示唆された.今後は,より長期的な介入や習熟度・個人差を考慮した検討が必要であり,深呼吸の臨床応用に向けた基礎的知見が得られたと考えられる.

【文献抄読】

担当:藤本知臣先生

タイトル:Shivering, but not adipose tissue thermogenesis, increases as a function of mean skin temperature in cold-exposed men and women

出典:Dumont et al., Cell Metab 37(9):1789-1805, 2025. doi: 10.1016/j.cmet.2025.06.010

  • 背景・目的:寒冷曝露に生じる熱産生はヒトの体温維持に重要な働きを持つが,大きな個人差がある.これまで,ふるえや非ふるえ熱産生のそれぞれに関する研究が行われてきたが,総熱産生におけるこれらの相対的貢献については明らかになっていない.本研究では,複数の寒冷刺激に対するふるえおよび非ふるえ熱産生反応を同時に計測し,心筋代謝との関連や男女差について検討した.
  • 方法:14名の成人 (男性8名,女性6名) において,水循環スーツを用いた皮膚温クランプシステムにより30°Cおよび26°Cの寒冷刺激をそれぞれ別日に行った.総熱産生量 (Indirect calorimetry), ふるえの強度 (表面筋電図),褐色脂肪細胞の代謝活性および心筋代謝 (PET/CT) などを測定した.
  • 結果:総熱産生量は寒冷刺激により増加し,30°Cより26°Cで高値を示した.ふるえの強度は寒冷刺激により増加し,30°Cより26°Cで高値を示した.一方,褐色脂肪細胞における代謝活性は寒冷刺激により増加したが,30°Cと26°Cで差は見られなかった.
  • 結論:総熱産生量におけるふるえ熱産生は寒冷刺激の強度依存的に増加するが,非ふるえ熱産生は非強度依存的であり,閾値前後で全か無かの反応を示す.