10/6勉強会

【研究報告】

担当:関根 悠介さん

タイトル:低頻度末梢電気刺激が触覚機能と脳律動にもたらす効果の検証

  • 背景・目的:末梢電気刺激(PES)は2人に1人で期待した効果が得られず,個人差が生じることが問題となっている.特に低頻度PESについては,触覚閾値を上昇させる可能性が示唆されているが,十分な検証が行われていない.我々の研究では,低頻度PESの刺激効果にはばらつきがあり,低頻度PES後に触覚機能が向上する被験者と低下する被験者が存在することを明らかにした.この個人差が生じる背景には,一次体性感覚野(S1)のα帯域の脳律動と触覚機能との間に見られる逆U字型の関係性が影響している可能性がある.本研究の目的は,低頻度PESが触覚方位弁別能力および脳律動にもたらす効果を検討することである.
  • 方法:健常成人男性30名を対象に,右示指へのPESを介入とshamの2条件で実施した.PES前後に触覚方位弁別課題(GOT)で弁別閾値を算出し,脳活動は開眼安静EEGからα帯域(8–13Hz)パワーを評価した.弁別閾値は測定時間と刺激条件を要因とする反復測定二元配置分散分析,αパワーはPermutation testで解析した.また,両者の変化率の関係を曲線回帰により検討し,有意水準は5%とした.
  • 結果:介入条件においてαパワーの増大が示された.また,左S1におけるαパワーの変化率と触覚方位弁別閾値の変化率との間に有意な関係は確認されなかった.
  • 結論:低頻度PESはS1のαパワーを増大させるが触覚機能は変化させない.左S1のαパワーの変化と方位弁別閾値の変化の間に有意な関係は認められない.

【文献抄読】

担当:中山 憲司先生

タイトル:Variant Creutzfeldt-Jakob disease diagnosed 7.5 years after occupational exposure

出典:Brandel et al., N Engl J Med 383(1): 83-85, 2020. doi: 10.1056/NEJMc2000687

 本論文抄読では,上記の論文を中心に,「プリオン病」に関する解説を行いながら,最新の知見や研究動向について紹介した.

 2011年に発表されたPadilla らの論文(PLoS Pathog. 2011; 7:e1001319)に従事したフランスの研究者が実験中に受傷し,プリオン病に職業性曝露した.ガイドラインに基づく感染予防処置が行われたが,7年半後に神経症状が出現し,17か月の経過で死亡した.臨床検査および病理診断の結果,変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(Variant Creutzfeldt-Jakob disease: vCJD)と診断された.

 当該患者が従事していたPadilla らの研究では,牛海綿状脳症(狂牛病,Bovine Spongiform Encephalopathy : BSE)から採取された異常型プリオン・タンパク質(PrPSc-BSE)を羊に感染させて継代し,ヒト正常型プリオン・タンパク質(PrPc)を発現するトランスジェニックマウスへの伝達性を検討した.その結果,ヒト・プリオン遺伝子(PRNP)のコドン129がメチオニン・ホモ接合(MM型) のマウスでは高い感染効率を示し,vCJDと類似した病態の再現に成功した.

 上記の職業性曝露症例は,強感染性の羊継代BSE(PrPTSE)を取り扱う実験の過程で,不幸にもPRNPコドン129MM型を有するヒトへの感染が生じた可能性があることを示唆しており,バイオセイフティの観点からも極めて重要な警鐘となっている.