10/13勉強会

【研究報告】

担当:萩野 由大さん

タイトル:体性感覚と聴覚の独立した変化検出神経活動の個人内相関関係を用いた検討

  • 背景・目的:Mismatch Negativity(MMN)は,予測と異なる刺激に対して自動的に生じる予測誤差信号であり,感覚処理や統計的学習の神経マーカーとして広く知られている.MMNは聴覚のみならず体性感覚など複数の感覚モダリティにおいても報告されているが,各モダリティにおけるMMNの神経基盤が独立しているのか,あるいは共通の神経処理機構を共有しているのかについては明らかでない.本研究では,体性感覚および聴覚MMNの個人内振幅相関を検討することで,モダリティ間に共通する変化検出機構の存在を探索的に検証した.
  • 方法:健常成人30名を対象とした.体性感覚,聴覚それぞれについて,強度逸脱を用いたoddball課題を実施した.各条件で標準刺激80%,逸脱刺激20%の比率で提示した.EEGは頭頂中心(Cz)を含む9電極から記録し,逸脱刺激に対するERPから標準刺激ERPを減算してMMN波形を算出した.100–200 msの平均振幅をMMN指標とし,体性感覚および聴覚間の個人内相関分析を実施した.
  • 結果・結論:体性感覚および聴覚いずれの条件でも典型的なMMNが観察された.両モダリティのMMN振幅の間には有意な負の相関関係が認められ,この結果は多感覚間で部分的に共通する神経資源の利用,あるいは変化検出に関わる神経適応,神経覚醒度低下の影響を反映している可能性が示唆された.

【文献抄読】

担当:菊元 孝則先生

タイトル:Markerless motion capture provides accurate predictions of ground reaction forces across a range of movement tasks

出典:Lichtwark et al., J Biomech 166: 112051, 2024. doi: 10.1016/j.jbiomech.2024.112051

  • 背景:人の動作中に身体へ作用する力(特に床反力)は,傷害予防・疾患進行・運動効率の理解に不可欠である.従来,床反力の測定にはフォースプレートが必要だが,設置環境や足部接地条件に制限があり,自由な運動計測には不向きであった.これに対し,マーカーレスモーションキャプチャ(深層学習を用いた姿勢推定)は,被験者へのマーカー装着を不要とし,より自然な動作解析を可能にする新技術として注目されている.本研究では,このマーカーレス計測から推定した全身加速度をもとに物理法則に基づき床反力が予測可能かを検証した.
  • 目的:市販のマーカーレスモーションキャプチャ(Theia3D, Vicon社)による全身運動情報から,3次元床反力(GRF)を精度良く推定できるかを,歩行・走行・ジャンプ・カッティング動作を対象に検証することを目的とした.
  • 方法:対象者:健常成人 22名(2群に分け実験),動作課題:歩行・走行・垂直跳躍(計測1群)/45°カッティング(計測2群),計測装置:8台の高解像度カメラによるマーカーレス撮影(50 Hz),床反力計(1000–2000 Hz)による同時計測,解析:Theia3Dで全身セグメントの位置・姿勢を算出し,Visual3Dで質量・慣性パラメータを用いて重心加速度→理論上の床反力を算出,測定値との一致度をR²値および二乗平均平方根誤差(RMSD)で評価.
  • 結果:平均RMSD:全動作・全方向平均で0.75 N/kg(約7 %)と良好,最大誤差:走行時の鉛直方向で1.85 N/kg(約9 %)と最も高値,一致度(R²):各方向・動作で0.95–0.99と非常に高い一致,水平方向(前後・内外)の波形にわずかな位相ずれ(約10 % stance)が認められたが,ピーク値の誤差は低値であった.
  • 結論:マーカーレス動作解析による全身加速度情報からの床反力推定は,従来のマーカー付き解析と同等の精度を示した.特に歩行・走行・ジャンプ・方向転換といった多様な動作でも高い汎用性を示し,臨床・スポーツ現場・フィールド研究において力学的評価を簡便化できる可能性を示した.将来的には,フォースプレートを用いずに,自由環境下での力学的負荷評価や傷害リスク解析への応用が期待される.
  • 自身の研究との関わり:本研究は,力学的負荷を直接測定せずに推定するというアプローチを示しており,私が行っている「着地動作時の脛骨前方剪断力・膝伸展モーメント・ACL負荷の評価」に密接に関連する.とくに,全身加速度から床反力を算出する物理モデルは,現行のViconシステムやフォースプレートを補完し,屋外・実競技環境でのデータ収集(例:バスケットボールやジャンプ着地)にも応用可能である.将来的には,マーカーレスデータと超音波計測を組み合わせて,動的条件下での関節負荷推定(ATFL・膝蓋腱・ACLリスク評価)へ発展させることができると考えられる.