10/27勉強会

【研究報告】

担当:北野 侑さん

タイトル:筋温変化が一過性のレジスタンス運動中の筋機能および血行動態に及ぼす影響

  • 背景・目的:レジスタンス運動 (RE) は筋力・筋量の増加および血管機能の改善をさせる手段として多くの人に活用されている.REによる効果を促進させる方法として,本研究ではRE中の筋温に着目した.筋冷却によりRE中の筋活動量が増加し,筋への負荷が向上する可能性がある.また,筋加温により運動中に筋温上昇による血流増加およびREによる血流増加の相乗で,血管壁への力がより増大する可能性がある.本研究では筋温変化に伴う筋機能および血行動態の変化およびその関連性を明らかにすることとし,1) 最大運動時,2) 最大下運動時の変化を調べることとした.
  • 方法:実験①では健常成人男性12名が参加し,10°C (Cold条件),40°C (Hot条件) および34°C (Neutral条件) の水に30分間浸漬した.浸漬前後の外側広筋筋温,剪断波速度および大腿動脈血流量を測定し,浸漬後は最大膝伸展筋力も測定した.実験②では健常成人男性12名が参加し,10°C (Cold条件),42°C (Hot条件) および34°C (Neutral条件) の水に30分間浸漬した.浸漬後,膝伸展によるREを実施した.RE中は実験①の測定項目に加え,外側広筋の筋活動量を測定した.
  • 結果・結論:実験①ではCold条件で最大膝伸展筋力,大腿動脈血流量の減少,Hot条件で大腿動脈血流量の増加がみられたが,筋の加温および冷却により外側広筋剪断波速度は変化しなかった.また,筋温の変化は大腿動脈血流量と正の相関を示したが,外側広筋剪断波速度との間には相関を示さなかった.実験①より筋温変化による筋機能および血行動態の変化は,運動中の筋への負荷,血管壁に加わる力を増加させている可能性がある.今後は実験②の解析および考察を進めることで,筋温変化がRE効果に及ぼす影響をより詳細に検討していく.

【文献抄読】

担当:余村 花梨さん

タイトル:Individualized resting-state functional connectivity abnormalities unveil two major depressive disorder subtypes with contrasting abnormal patterns of abnormality

出典:Fang et al., Transl Psychiatry 15, 45, 2025. doi: 10.1038/s41398-025-03268-9

  • 目的:大うつ病性障害(MDD)は世界的に蔓延する精神疾患であり,その症状や病態経過,治療反応性には大きな個人差が存在する.この臨床的異質性の背景には,異なる神経基盤が関与している可能性が指摘されている.従来の研究では,群レベルの平均的な脳活動に基づいてサブタイプ同定が行われてきたが,個人レベルの異常を十分に捉えられていない可能性がある.本研究では,個人レベルの機能的結合異常を抽出できる許容区間法を用いて,MDDの神経生物学的サブタイプを同定することを目的とした.
  • 方法:REST-meta-MDDコンソーシアムの大規模マルチサイトデータ(MDD患者1,276例,健常者1,104例)を用い,健常者の安静時fMRIデータから各結合の正常範囲(許容区間)を設定した.MDD患者でこの範囲を逸脱する結合を「極端な結合」と定義した.得られた特徴に対して,サブサンプリングによる安定性検証,Neurosynthを用いた機能的エンリッチメント解析,クラスタリングによるサブタイプ同定,SVMによる分類精度の検証を行った.
  • 結果:19,900本の結合のうち,556本が一貫して結合として同定された.これらは主に視覚ネットワークとDMN・前頭頭頂ネットワーク・腹側注意ネットワーク間に分布していた.クラスタリングの結果,MDD患者は過結合型(Subtype1)と低結合型(Subtype2)に分類された.両サブタイプの臨床指標(年齢・性別・重症度)には差がなかったが,SVM解析では,サブタイプ別に分類した方がMDD患者全体よりも高い精度で健常者と識別できた.
  • 結論:本研究では,臨床症状は類似していても,脳ネットワークの機能的結合パターンに基づく明確な神経サブタイプを有することが示された.許容区間法を用いた個人レベルの解析により,従来の群平均解析では見えなかったMDDの神経基盤の多様性を明らかにした.