11/3勉強会

【研究報告】

担当:福山 夏未さん

タイトル:メントールによるTRPM8活性化は寒冷順化効果を高めるのか?

  • 背景・目的:寒冷環境下の避難生活では,十分な暖房が得られず,低体温症(二次的被害)のリスクが増大する.低体温症を防ぐためには,寒冷順化 (繰り返し寒冷刺激を与え,寒さに対する生理的順応を促す方法) による皮膚血管収縮反応の改善が効果的であるが,寒冷順化による皮膚血管収縮の局所性メカニズムに及ぼす影響は明らかでない.また,皮膚血管収縮の局所性メカニズムの1つとして皮膚の冷受容器であるTRPM8の関与が示唆されているが,薬理手法による皮膚TRPM8の活性化が寒冷順化による皮膚血管収縮反応の変化に及ぼす影響は明らかではない.本研究の目的は,局所部位への繰り返し寒冷刺激による寒冷順化が皮膚血管収縮反応および温度感覚に及ぼす影響と,メントールによるTRPM8の活性化がそれらに及ぼす影響を検討することである.
  • 方法:健康な成人20名を対象とし,前腕部における寒冷順化を10日間(1日60分)行った.また,寒冷順化はコントロール群(20°Cの寒冷刺激のみ)とメントール群(10%メントール塗布後に20°Cの寒冷刺激)の2群に分けて行った.測定項目は,寒冷順化期間の前後に局所皮膚温冷感受性,20°Cの局所寒冷刺激時の皮膚血流量,平均動脈血圧,温度感覚,熱的快適性とした.また,順化期間中は温度感覚および熱的快適性を評価した.
  • 結果・結論:現在,実験および解析を進行中である.今後は,TRPM8の活性化が局所寒冷順化に及ぼす影響を明らかにし,その生理的意義を明確にする予定である.

【文献抄読】

担当:相澤 凜さん

タイトル:Fast perceptual learning induces location-specific facilitation and suppression at early stages of visual cortical processing

出典:Wang et al., Front Hum Neurosci 18: 1473644, 2025. doi: 10.3389/fnhum.2024. 1473644

  • 目的:視覚知覚学習(Perceptual learning; PL)は,繰り返しの訓練によって知覚能力が持続的に向上する現象であり,訓練刺激に特有の改善が見られる特異性が大きな特徴であることが報告されている.従来の研究では,知覚学習の特異性を「訓練位置での促進」として考えられており,未訓練位置での処理が“抑制”されている可能性については十分に検討されていない.本研究では,数十分の視覚訓練(fast PL)を用いて,位置特異的な学習効果を行動指標とERPで検討した.さらに,訓練後のテストで注意の向け方を操作し,ERP変化が注意に依存する促進効果か,注意に依存しない抑制効果かを区別することを目的とした.
  • 方法:被験者はVernier課題を用いて,片側の刺激位置(訓練位置)のみを判断する学習を行った.脳波(EEG)を記録し,刺激提示後75–120 msのP1成分(P1c-i)の変化を解析した.実験1では短時間学習によるP1変化を,実験2では注意の影響を切り分けて検証した.
  • 結果:行動成績では,約1時間の訓練で成績が有意に向上し,学習効果が確認された.ERPでは,訓練位置でP1c-i(100–120 ms)の振幅が増加(促進効果)した.一方,未訓練位置では早期P1c-i(75–95 ms)が減少(抑制効果)した.促進効果は注意を向けたときのみ現れ,抑制効果は注意とは無関係に持続した.
  • 結論:本研究は,短時間の知覚学習(fast PL)によって,視覚皮質の初期段階で「訓練位置での促進」と「未訓練位置での抑制」が同時に起こることを示された.促進効果は意識的な注意配分の変化を反映し,抑制効果は自動的な視覚処理の抑制を反映していると考えられる.この2つの異なるメカニズムが,知覚学習の位置特異性を生み出していることを明らかにした.