11/10勉強会

【研究報告】

担当:川村 瞭さん

タイトル:fMRIを用いた機械的刺激時の脳賦活部位の特定

  • 背景・目的:痛みの知覚は個人差が大きく臨床的に大きな課題となる.疼痛評価に用いられる患者の主観的評価は,簡便な一方で痛みの背景にある多様な病態生理学的メカニズムを区別することはできない.より客観的な疼痛評価を可能にするには,疼痛に関する脳機能メカニズムの解明が重要である.本研究は機械的刺激の異なる刺激強度での脳賦活部位の違いをfMRIによって特定し,さらに低閾値群と高閾値群での疼痛感受性の違いによるそれぞれの脳活動パターンを明らかにすることを目的とした.
  • 方法:本研究には52名の健康な成人が参加した.3種類の強度(60 g,100 g,180 g)の機械的刺激をfMRI撮像中に実施した.全対象者の各刺激強度に対する脳賦活部位の特定,機械的疼痛閾値の高閾値群と低閾値群における各刺激強度に対する脳賦活部位の特定を実施した.
  • 結果:60 gの刺激で前部島皮質,100 gの刺激で前部島皮質,中心前回,小脳,180 gの刺激で小脳,角回,視床が有意に賦活した.低閾値群と高閾値群で分類すると,低閾値群は体性感覚野領域の賦活に限定され,高閾値群では体性感覚野領域に加えて前部島皮質,上頭頂小葉,中心前回,中前頭回が有意に賦活した.
  • 結論:各刺激強度に対する脳賦活部位の特定より,刺激強度に応じた段階的な賦活領域の変化が確認され,高い刺激強度ほど複雑な処理過程を経て感覚処理が行われている可能性が考えられる.また,閾値分類による賦活部位の検討から,疼痛閾値の違いが認知制御能力の差に起因することが考えられた.

【文献抄読】

担当:時田 優菜さん

タイトル:Tactile imagery affects cortical responses to vibrotactile stimulation of the fingertip

出典:Morozova et al., Heliyon 10(23): e40807, 2024. doi: 10.1016/j.heliyon.2024.e40807

  • 目的:本研究では,触覚イメージ(tactile imagery:TI)が大脳皮質の体性感覚処理に与える影響を明らかにすることを目的として,健常成人を対象に脳波(EEG)を用いて検討した.これまでの研究では運動イメージ(motor imagery)が広く調べられてきたが,体性感覚イメージに関する知見は限られている.触覚イメージは実際の触刺激と同様に体性感覚皮質を活性化することが示唆されており,脳―コンピュータ・インターフェース(BCI)への応用や感覚リハビリテーションへの展開が期待される.本研究では,右示指への振動刺激とその触覚イメージを比較し,事象関連脱同期(ERD)や体性感覚誘発電位(SEP)の変化を分析した.これにより,触覚イメージが一次および二次体性感覚野を含む皮質活動にどのように影響するかを明らかにし,感覚イメージに基づくBCI開発の基礎的知見を得ることを目的とした.
  • 方法:本研究では,右利きの健常成人29名(平均25.1歳)を対象に,触覚イメージ(TI)と実際の振動刺激(tactile stimulation:TS)における脳活動を比較した.刺激にはArduino制御の振動モーターを用い,右示指に75msの短い振動刺激を与えた.実験はTS練習,TI練習,本試行(TI条件および非イメージ条件)から構成された.TS練習では参加者が振動刺激を体験し,その感覚(圧覚,くすぐったさ,強度,持続時間など)を記憶した.続くTI練習では,実際の刺激なしにその感覚を心的に再現する訓練を行った.本試行では,TI中および非イメージ条件で体性感覚誘発電位(SEP)を測定した.EEGは47チャンネルで記録し,μリズムおよびβリズムの事象関連脱同期(ERD/S)解析とSEPの各成分(P100,P200,P300,P600)の振幅・潜時を比較した.
  • 結果:触覚イメージ(TI)は実際の振動刺激(TS)と同様に,対側のμリズムに事象関連脱同期(ERD)を引き起こし,その強さには個人間で正の相関がみられた.また,TI中には体性感覚誘発電位(SEP)のP100,P200,P300,P600成分の振幅が増大し,特に前頭・体性感覚領域で顕著な変化が認められた.これらの結果は,触覚イメージが一次および二次体性感覚野,さらに前頭葉を含む広範な皮質ネットワークを活性化し,実際の触刺激と類似した神経処理を引き起こすことを示す.
  • 結論:触覚イメージは体性感覚情報処理を促進することが明らかとなり,今後の感覚リハビリテーションやイメージベースのBCI応用に有用な基盤となる可能性が示唆された.