11/17勉強会

【研究報告】

担当:上田 有紀音さん

タイトル:性格特性が表情認知に及ぼす影響:fMRIを用いた脳活動解析

  • 背景・目的:表情は,基本的な感情を瞬時に伝える非言語的なコミュニケーション手段であり,他者の感情状態を理解し,適切な社会的行動を選択するのに重要な情報である.この表情認知能力には個人差がみられることが知られており,その要因の一つとして性格特性が関与している可能性が考えられる.また,表情認知の低下はうつ病や発達障害など臨床領域でも報告されており,その背景にある個人差の神経基盤を理解することは,情動処理に関わる支援や早期介入の観点からも重要である.そこで本研究では,性格特性が表情認知時の脳活動にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的に,fMRI を用いて脳活動解析を行った.
  • 方法:対象者は54名で,性格特性診断(NEO-PI-R)に基づき,神経症傾向,外向性,開放性の高低によって参加者を分類した.参加者に喜び表情と悲しみ表情を用いた表情認識課題を実施し,fMRI によって脳賦活部位を特定したうえで群間比較を行った.
  • 結果:神経症傾向が高い群および外向性・開放性が高い群では,いずれの表情条件でも有意な賦活は認められなかった.一方,神経症傾向が低い群では,喜び条件で下前頭回眼窩部・線条体・帯状回・縁上回が,悲しみ条件で線条体が賦活した.外向性が低い群では,喜び条件で下前頭回三角部,悲しみ条件で島皮質および尾状核が賦活した.また,開放性が低い群では,喜び条件で下前頭回眼窩部,悲しみ条件で島皮質の賦活が確認された.
  • 結論:本研究の結果から,表情認知時の脳活動には性格特性による差異が認められ,特に神経症傾向・外向性・開放性の低い群で賦活がみられたことから,性格特性が感情処理に関わる神経活動に影響を与える可能性が示された.

【文献抄読】

担当:反町 瑠菜さん

タイトル:Electrical brain activity during human walking with parametric variations in terrain unevenness and walking speed

出典:Liu et al., Imaging Neurosci 2, 2024. doi:10.1162/imag_a_00097

  • 目的:自然環境はほとんど平坦ではない不整地であり,歩行のバランス制御に影響を与える.しかし,不整地歩行に関与する脳活動はまだ解明が進んでいない.そのため,高密度脳波(EEG)を使用して不整地地形の段階的な変化による皮質活動電位の定量化を目的とした.
  • 方法:高密度EEGを用いて,32名の健常若年者が,4段階の難易度で作成された不整地トレッドミル上を,各参加者に合わせた歩行速度で歩行した際の脳活動を計測した.歩行中の運動学的データとEEGデータに対して線形混合効果モデル,ノンパラメトリック順列統計を使用して比較検討を行った.
  • 結果:不整地の地形の難易度に伴い,感覚運動野および後頭頂葉ではアルファ波(8~13Hz)とベータ波(13~30Hz)のスペクトルパワーが減少したが,中帯状皮質/後帯状皮質ではシータ帯域(4~8Hz)のスペクトルパワーが増加した.
  • 結論:不整地の難易度に伴うこれらの脳活動の変化は,不整地歩行では感覚統合やバランス制御,エラー監視などの高次的な皮質処理の関与が必要となることを示唆している.本研究は、不整地歩行における皮質動態の基準データとなり,歩行障害者の神経メカニズム理解にも寄与する可能性がある.