12/1勉強会
【研究報告】
担当:大野 里奈さん
タイトル:手の冷温刺激による脳賦活部位の特定とリラクゼーション効果
- 背景・目的:近年,冷温刺激が自律神経系や情動調整に影響を与えることが報告されており,温刺激は副交感神経を優位にしてリラックスを促進し,冷刺激は交感・副交感神経の両方に作用する.しかし,日常的に使用できるhot/coldパックが脳活動やリラクゼーションに与える影響については十分に検討されていない.本研究では,fMRIを用いて手の冷温刺激が脳活動およびリラクゼーション関連領域に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.
- 方法:対象は冬季34名,夏季28名を撮像した.温刺激(40℃),冷刺激(18℃),中性刺激(30℃)の3条件で右手に持たせた.fMRI解析により脳賦活部位を特定した.
- 結果:冬季の温刺激:補足運動皮質(SMA),上前頭回,中前頭回,内側上前頭回に賦活がみられた.冬季の冷刺激:有意な賦活は認められなかった.夏季の冷刺激:上前頭回,中前頭回の賦活がみられた.夏季の温刺激:有意な賦活は認められなかった.
- 結論:本研究の結果から,季節によって快適に感じる刺激が異なることが示された.本研究は,季節性を考慮した温熱・冷却ケアの有効性を脳科学的に示した初の報告であり,日常的に実践可能な新たなリラクゼーション手法の開発に貢献する可能性がある.
【文献抄読】
担当:川尻 陽菜さん
タイトル:Impact of acute and chronic cycling exercise on microvascular reactivity of the upper and lower extremity muscles in young healthy females
出典:Xuanyao Liu et al. J Exerc Sci Fit 23(4): 299-305, 2025. doi: 10.1016/j.jesf.2025.06.004B2
- 目的:心血管疾患の予防には血管機能の改善が重要であるとされている.上腕動脈などの大血管に対する研究は広範に行われており,運動によってその機能が改善することが報告されているが,骨格筋など全身に存在する毛細血管,微小血管に対する研究は少ない.また,運動によって非運動肢である上肢の大血管機能が改善する報告があることから,運動により上肢骨格筋微小血管機能が改善する可能性がある.そこで本研究では,エルゴメータ運動が上肢および下肢骨格筋微小血管反応性へ与える急性の影響と,8週間のエルゴメータトレーニングが上肢および下肢骨格筋微小血管機能へ与える影響を調査することを目的とした.
- 方法:健常若年女性20名が参加したが,2名の除外により最終解析対象は18名であった.初期評価の後に,8週間のエルゴメータトレーニングを実施し,介入後最終評価を実施した.初期評価および最終評価では,30分間の中強度エルゴメータ運動前,運動終了20分後,40分後,60分後の計4点において,近赤外分光法を用いて微小血管反応性を測定した.また,これらのデータをエルゴメータ運動の前後で比較することで急性の影響を検証した.骨格筋微小血管反応性,機能の測定部位は,上腕二頭筋と外側広筋とした.
- 結果:上腕二頭筋ではエルゴメータ運動後の骨格筋微小血管反応性の上昇と8週間のエルゴメータトレーニング後の骨格筋微小血管機能の上昇が確認された.しかし,外側広筋ではそのような変化は確認されなかった.
- 結論:運動による全身のせん断応力の増大は,一酸化窒素(nitric oxide: NO)の放出を増加させ,血管拡張反応および骨格筋微小血管反応性,機能を向上させる.しかし,下肢では筋収縮により炎症性サイトカインや活性酵素種などが放出され,これらがNOの作用を阻害したため,骨格筋微小血管反応性,機能が向上しなかったと考えられる.上肢においてはこのようなストレスが発生しなかったため,骨格筋微小血管反応性,機能が向上したと考えられる.以上より,エルゴメータ運動および8週間のエルゴメータトレーニングは上肢骨格筋微小血管反応性,機能を向上させるが,下肢骨格筋微小血管反応性,機能には影響を与えないと結論づけた.