1/5勉強会

【研究報告】

担当:玉越 敬悟先生

タイトル:脳出血後の超早期運動介入による炎症関連遺伝子ネットワークの構造的再編

  • 背景:脳卒中発症後24時間以内の超早期リハビリテーションは,臨床研究において3か月後の機能転帰を悪化させることが報告されており,基礎研究の観点からも,早期の運動介入がミクログリアの活性化を介して炎症反応を促進し,神経細胞死や梗塞巣の拡大を招く可能性が示唆されている.しかし,超早期介入が脳内の炎症応答の質的な変化にどのような影響を与えるか,その詳細な遺伝子ネットワーク構造は十分に解明されていない.
  • 方法:ラット脳出血(ICH)モデルを用い,発症6時間後に単回のトレッドミル運動(9 m/min,60分)を実施し,発症27時間後に解析を行った.脳内解析項目として,血腫体積や脳浮腫の評価,およびNeuNやPSD95等のタンパク解析,mRNA解析を実施した.さらに,PCR array法を用いて炎症性サイトカインや受容体に関連する96種の遺伝子を網羅的に解析し,バイオインフォマティクス手法を用いてタンパク質相互作用ネットワークの構築およびハブ遺伝子の同定を行った.
  • 結果:解析の結果,発症6時間後の単回運動介入は,血腫体積や脳浮腫といった形態的・量的な指標には有意な影響を及ぼさなかった.一方で,遺伝子発現レベルでは複数の変動が認められ,特に多機能因子であるcsf2 mRNAの有意な増加が確認された.ネットワーク解析により,超早期運動介入は炎症に関連する複数の遺伝子の相互作用を活性化させ,特定の遺伝子を中心としたネットワーク構造を再編させていることが明らかになった.
  • 考察:本研究の結果,脳出血直後の運動介入は,血腫量という量的な変化ではなく,炎症応答の様式を構造的に変化させる可能性が示唆された.先行研究では発症6時間と24時間の反復運動が機能を悪化させることが報告されているが,本研究における単回運動では異なる応答がみられたことから,超早期介入の効果は実施タイミングや頻度によって反転する可能性がある.リハビリテーションの臨床応用においては,これらの炎症応答の質的変化を規定する適切なプロトコルの検討が重要である.

【文献抄読】

担当:角田 彪瑠さん

タイトル:Machine-based based subtalar pronator and supinator strength training increases rearfoot stability in male runners

出典:Marco Hagen et al. J Biomech 187: 112770, 2025. doi: 10.1016/j.jbiomech.2025.112770

  • 背景:足部(距骨下関節:Subtalar Joint)の過度な回内動作及び回内速度の増大は,ランニングにおけるオーバーユース障害の病態生理に関わる主要な内的要因として議論されてきた.これらの危険因子を低減させるための一つの方法として遠心性に作用する回外筋群の使用が考えられる.本研究では,回外筋及び回内筋を対象とした距骨下関節軸上でのトレーニングは,従来行われてきた足関節(距腿関節)周囲の底屈筋及び背屈筋トレーニングと比較して,後足部運動の抑制に効果的であるという仮説を立てて調査した.
  • 方法:20名の健常な男性レクリエーショナルランナー(20~35歳)を対象とし,右足には機器を用いた距骨下関節トレーニング(ST)を,左足には機器を用いた距腿関節周囲の底屈・背屈トレーニング(TT)を10週間にわたり実施した.介入前後で距骨下関節筋力及び下腿筋体積を測定した.また後足部運動は,地上走行(3.3m/s)時で解析した.
  • 結果:多変量解析の結果,筋力および筋体積いずれも有意に増加した.(p<0.001)交互作用効果(時間×群)では,ST群において筋力の増加がより大きく(p<0.001),深層回外筋の筋体積増加率もST群で有意に高かった.(p<0.05)後足部運動の解析では,接地時の内反角度の増加(p<0.01)及び立脚中期における外反速度の低下(p<0.01)が介入後に認められた.これらの変化はいずれもST群でより顕著であり(p<0.01;時間×群の交互作用),距骨下関節における特異的なトレーニング効果が示された.
  • 結論:機器を用いた距骨下関節筋力トレーニングは,男性ランナーにおいて回外筋群の機能を向上させ,ランニング中の後足部運動を安定化させることで,下肢障害のリスクを低減する可能性のある予防戦略であることが示唆された.