3/2勉強会

【研究報告】

担当:越智 元太先生

タイトル:疲労困憊に至る漸増負荷運動後の過度な脳内乳酸上昇と認知疲労の関係

  • 背景・目的:適度な運動は実行機能を高める一方で,過度な運動強度での運動はむしろ実行機能の低下(認知疲労)を引き起こす可能性がある.激しい運動時には神経活動のエネルギー源である脳内乳酸が増加することが報告されているが,過度な脳内乳酸の増加は神経活動に対してネガティブに働く可能性が示唆されている.しかし,激運動による脳内乳酸上昇と認知疲労の関係性は不明な点が多い.本研究では,疲労困憊運動による脳内乳酸上昇が認知疲労の発現に関与するかを明らかにすることを目的とした.
  • 方法:参加者16名を対象として,疲労困憊に至る漸増負荷運動を行い,運動前後に血中乳酸,心拍数,心理尺度(RPE,活性度,安定度,快適度,覚醒度),およびMRSによる右DLPFC乳酸を測定した.実行機能の評価にはフランカー課題を用いた.
  • 結果:疲労困憊運動により,RPE,血中乳酸,脳内乳酸が有意に増加した.フランカー課題成績は運動前後で有意な変化は認められなかったが, 脳内乳酸とフランカー干渉の間には有意なU字型関係が認められ,脳内乳酸が低い時および高い時にフランカー干渉遅延や正確性の低下,中程度の時にフランカー干渉短縮や正確性向上が生じるとなることが示された.
  • 結論:脳内乳酸と実行機能の間に非線形的(U字型)関係が存在し,適度な脳内乳酸の増加は実行機能を維持・向上させるが,過度な増加は認知疲労を引き起こす可能性が示唆された.

【文献抄読】

担当:大石 卓実さん

タイトル:Neural mechanisms underlying the improvement of gait disturbances in stroke patients through robot-assisted gait training based on QEEG and fNIRS: a randomized controlled study

出典:Xiang et al., J Neuroeng Rehabil 22(1): 136, 2025. doi: 10.1186/s12984-025-01656-2

  • 目的:Robot assist gait training(RAGT)は従来の歩行練習と比較し,脳卒中患者の下肢機能や歩行能力の改善に有効であることが示されている.しかし,RAGTが有効とされる背景にある神経メカニズムは十分に明らかにされていない.本研究では,RAGTが脳卒中患者の下肢運動障害及び運動野の神経活動へ及ぼす影響について検討した.
  • 方法:初発脳卒中患者36名を対象にRAGTを行う介入群(RAGT群)と従来の平地歩行練習を行うコントロール群に無作為に割り付けた(各群18名).主要アウトカムは機能的近赤外分光法(fNIRS)により測定された皮質活動,定量的脳波(QEEG)により測定されたpower ratio index(PRI)及びdelta / arpha ratio(DAR),ならびにPRI・DARと下肢運動障害の程度を評価するFugl-Meyer Assessment(FMA)との相関とした.また,副次アウトカムはFMA及び歩行自立度の指標であるFunctional Ambulation Category(FAC)とした.アウトカムの測定はベースライン及び4週間の治療後に実施した.
  • 結果:fNIRSの解析では,RAGT群において,運動前野及び補足運動野の活動がコントロール群よりも有意に増加した.QEEGの解析では,RAGT群において,運動前野,補足運動野及び一次運動野のPRI及びDARの低下が認められた.また,FMA及びFACはRAGT群において,有意に向上した.
  • 結論:RAGTは脳卒中患者の下肢運動障害や歩行能力を改善させ,その背景には運動野の神経活動の変化及びPRIやDARといった脳波指標の変化と関連している可能性がある.