6/22勉強会

【研究報告2件】

担当:角田 彪瑠さん

タイトル:走路の種類と左右差がランニング中の足部内運動に与える影響

  • 背景・目的:ランニング障害は,下肢の特に足部・足関節で多く発生し,前足部・中足部・後足部の外がえし増大は障害発症に関与する.先行研究の多くは直線路ランニングを対象にしているが,陸上競技は曲線路走行も多く,競技環境と実験環境の間にギャップが存在する.そのため曲線路走行中の足部内運動の検証も重要である.曲線路ランニングでは向心力生成のため曲線路中心方向へ身体を傾斜させる必要があり,この傾斜により左右非対称な負荷が生じ,足部内運動も左右で異なる運動が生じる.また直線路および曲線路ランニング時の足部内運動を比較することで,走路条件によってどのような影響や適応が生じるかが分かる.しかし,曲線路ランニング中の前・中・後足部の運動や左右差は検討されておらず,さらに直線路ランニングとの違いも明らかになっていない.そこで本研究は,走路条件と左右差が足部内運動に及ぼす影響を調査した.
  • 方法:陸上競技トラック種目経験のある健常男子大学生14名を対象に,Rizzoli foot modelに準じて反射マーカーを貼付した.直線路条件と半径5mの曲線路条件(反時計回り)を前足部接地で時速18km±5%で走行し,立脚期における前・中・後足部の外がえし角度ピーク値を算出した.統計解析は走路(直線路・曲線路)と下肢(左足・右足)を2要因とした反復測定分散分析を行い,交互作用を認めた場合は対応のあるt検定を実施した(有意水準5%).また効果量(Cohen’s dz)も算出した.
  • 結果:前・中・後足部で外がえし角度に交互作用が認められた.事後検定の結果,各セグメントで直線路における左右差は認められなかった(p=0.07~0.39).一方,全セグメントの外がえし角度は,曲線路の左足が右足と比べて有意に高値を示した(p<0.001).さらに,左足では曲線路条件,右足では直線路条件で外がえし角度が有意に大きかった(p<0.001).曲線路条件の左右差の効果量は大きく(dz=3.75~4.06),各セグメントの中で中足部が最大であった.
  • 考察・結論:左足の全セグメントの外がえし角度は,直線路と比較し曲線路条件で増加した.曲線路ランニングでは身体傾斜により左足で外側荷重となり,足部全体に外がえし方向の外部モーメントが作用したことで,全セグメントで外がえし角度が高値となった可能性がある.また曲線路ランニング中の左右差の効果量は中足部で最大であった.中足部はアーチ構造を有し,衝撃吸収・推進機能を担う.曲線路ランニング中の負荷をアーチ構造で吸収した結果,中足部の可動域が増加し最大の効果量が得られた可能性がある.本研究により,反時計回りの曲線路ランニングでは,左足の前・中・後足部で外がえし角度が増加し,特に左足の中足部では左右非対称な負荷の影響が強く反映される可能性がある.

担当:奥谷 真央さん

タイトル:膝蓋腱の伸張性が着地時におけるACL損傷危険因子に与える影響

  • 目的:膝前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament:ACL)損傷は,長期間の競技離脱や将来的な変形性膝関節症のリスクを伴う重篤なスポーツ外傷である.ACL損傷の主要な発生メカニズムとして,着地動作における過度な脛骨前方移動(Anterior Tibial Translation:ATT)が知られている.これまでの先行研究では,大腿四頭筋の過剰な収縮がATTを増大させることが報告されてきた.しかし,大腿四頭筋の張力は膝蓋腱の伸張・短縮を介して脛骨に伝達されるため,筋力だけではなく,張力を伝達する膝蓋腱の特性がACLへの力学的負荷に関与している可能性が高い.そこで本研究は,ACL損傷の好発動作である片脚着地に着目し,膝蓋腱の伸張性が着地時のATTに及ぼす影響を検討することを目的とした.
  • 方法:対象は女子バスケットボール選手21名とした.膝蓋腱伸張性の計測には超音波画像装置および多用途筋機能評価運動装置(Biodex)を用いた.膝関節30°屈曲位において,各対象者の最大随意収縮の90%での等尺性収縮を行い,その際の膝蓋腱を撮影した.組織の移動量を定量化するトラッキングソフト(GLAB Co., Ltd. Japan)を使用し,筋収縮時の腱の移動量から伸張量を算出した.安静時に対する最大伸張量を膝蓋腱伸張性の指標とした.続いて,三次元動作解析装置(VICON,Oxford Metrics社)および床反力計(OR6-6-2000,AMTI社)を用いて,片脚着地動作を計測した.サンプリング周波数は,動作解析装置を250Hz,床反力計を1,000Hzに設定した.下肢に29個の反射マーカーを貼付し,骨盤,大腿,下腿および足部を定義した.課題動作は30cm台からの片脚着地とし,5回の試技を行った.ACL損傷が発生しやすいとされる着地後100msまでの区間におけるATTのピーク値の平均値を算出し,膝蓋腱伸張性との相関関係をスピアマンの順位相関係数を用いて検証した.
  • 結果:膝蓋腱伸張性と片脚着地動作における着地後100ms間のATTピーク値との間に,有意な正の相関が認められた(ρ=0.566, p=0.007).
  • 結論:着地動作のような浅い膝関節屈曲位では,大腿四頭筋の制動力が膝蓋腱を介して直接的な前方剪断力に変換されやすい力学的環境にある.着地のような遠心性収縮時は,腱は粘弾性特性により全体として剛性を高め関節を制動する役割を担う.しかし,脛骨粗面側の膝蓋腱伸張性が高い場合,着地初期の衝撃吸収時にその局所に過剰なひずみエネルギーが蓄積されると考えられる.その後,蓄積されたエネルギーが急激な反発力として解放され,脛骨を前方に強く牽引した結果,ATTを増大させたと推察される.以上より,膝蓋腱伸張性は,ACL損傷の危険因子である脛骨前方移動量に影響する可能性が示された.
  • 今後:有限要素解析ソフトウェア(FEBio)等を用いて,膝蓋腱特性が動的なATTに与える力学的影響をコンピュータ上で検証し,本研究で推察されたメカニズムの理論的裏付けを進めたいと考えている.さらに,膝蓋腱全体の長さ変化率の測定や多変量解析を行い,複数の因子がATTに与える影響を包括的に検証していく予定である.