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第47回日本理学療法学会 予演会

持続筋収縮時の大脳皮質活動と筋活動の経時的変化‐頭皮血流量,血圧の変動が酸素化ヘモグロビンに与える影響を考慮して‐

宮口 翔太1,椿淳裕1,2

1)新潟医療福祉大学医療技術学部理学療法学科

2)新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所

  • 目的;近赤外光イメージング装置(NIRS)は,中枢神経系による筋活動調節のメカニズムを解明する研究に応用され,近年,持続筋収縮時の脳活動と筋活動の変化に関する研究が行われている.しかし,NIRSで計測した値は,運動課題中に変化する頭皮や頭蓋骨板間などの血流量の影響を受けてしまい,純粋な脳活動指標としての信頼性が損なわれることが報告されている.そこで頭皮血流量や血圧の影響を取り除いた純粋な脳活動指標を計測することができれば,中枢神経系による筋活動調節のメカニズム解明の一助になると考えた.近年Ludovicoら(2011)は,プローブを1 cm間隔で配置した結果,脳組織を含まず,完全に頭皮や皮下組織の血流を計測したことを報告している.また,プローブを2 cm間隔で配置した結果,大部分は頭皮や頭蓋骨における血流を計測したとの報告(Chemseddineら,2010)もあり,脳活動のみを計測できる可能性が示されつつある.そこで本研究は,プローブ間隔1.5 cmを用いて大脳皮質領域直上の頭皮血流量を計測し,プローブ間隔3 cmで計測した血流量から差し引いた値を,血圧および頭皮血流の影響を取り除いた純粋な脳活動と仮定し,持続筋収縮時の大脳皮質活動と筋活動の経時的変化の検証を目的とした.
  • 方法;対象は,右利き健常成人6名(年齢21.2±0.4 歳)とした.課題動作は最大随意収縮での等尺性収縮によるハンドグリップとし,180 秒間施行した.NIRS(OMM3000/16,島津製作所)を使用し,プローブ間隔3 cmでは大脳皮質運動野領域における酸素化ヘモグロビン量(OxyHb)を計測した.またプローブ間隔1.5 cmでは浅層組織酸素化ヘモグロビン量(S-OxyHb)を計測し,頭皮血流量を反映する指標と仮定した.照射プローブと受容プローブは国際式10-20法に基づくCzを基準に,左頭頂葉に縦3列,横8列で配置した.また,連続血圧血行動態測定装置(Finapres,Monte System C)およびレーザー組織血流計(OMEGA FLOW FLO-C1,OMEGAWAVE社)を使用し,平均血圧(MAP)および,前頭部の頭皮血流量(SBF)を計測した.握力計(MLT003/D Grip Force Tranducer,ADInstruments)により右上肢把持力(force)を,筋電計(DPA-2008,ダイヤメディカルシステム)により腕橈骨筋,指伸筋,尺側手根屈筋,長掌筋の筋活動を,サンプリング周波数1 kHzで抽出した.force,MVCは最大随意収縮時の値にて正規化し,MVCについては課題開始直後の値からの減衰率を求めた.OxyHbは運動野領域の相当する6チャネル,S-OxyHbは運動野領域上の2チャネルの平均値を算出した.課題遂行中のS-OxyHb,SBF,MAPの値は,安静時からの変化量を算出し,ピアソンの相関係数の検定により3つの値相互の相関関係の強さを求めた.有意水準はいずれも5 %とした.OxyHbとMVCの減衰率について,課題遂行中の時間を3区間(0~29 sec,30~119 sec,120~180 sec)に分け,各区間ごとに有意水準5 %でピアソンの相関係数の検定を行った.
  • 説明と同意;対象者には本研究の目的や方法等について十分な説明を行い,書面にて参加の同意を得た.また,測定前後に関わらず,研究への参加を辞退することが可能である旨も伝えた.
  • 結果;S-OxyHbとSBF,S-OxyHbとMAP,MAPとSBFとの間に,それぞれ相関係数0.60~0.78(p<0.001),0.56~0.92(p<0.001),0.61~0.76(p<0.001)の正の相関関係を認めた.OxyHbはハンドグリップ開始後,増加し,150秒後に徐々に低下し始めた.課題遂行中の0~29 秒区間,30~119 秒区間,120~180 秒区間のOxyHbとMVCの減衰率との間の相関係数は,それぞれ0.48(p<0.001),0.55(p<0.001),0.10(p=0.085)であった.120~180 秒区間では正の相関関係は認められなかった.
  • 考察;S-OxyHb,SBF,MAPの相互の相関関係から,S-OxyHbの値が頭皮血流量や血圧の変化を反映していた可能性が示唆され,NIRSで計測したOxyHbの値からS-OxyHbの値を取り除くことで,課題中の血圧変動の考慮が可能であると考えられる.持続筋収縮時の脳活動,筋活動の関係については,これまでの報告同様,ハンドグリップ開始後の筋活動の低下に伴い,運動野領域の活動は増加し続けたことを示す.課題開始初期の運動野の活動増加は,目的とする筋出力を維持するための皮質の出力ニューロンの活性化を表すことが考えられる.しかし,中枢の出力ニューロンの活性化では完全に筋出力を維持することはできず,末梢の筋の疲労により,筋活動,および把持力が低下したのではないかと考えた.
  • 理学療法学研究としての意義;理学療法実施中の脳活動を,NIRSを用いて明らかにしようとする場合,S-OxyHbを差し引くことで純粋な脳活動が計測できる可能性が示された.これにより,運動課題遂行中の大脳皮質活動の計測をより正確に示すことができ,理学療法手段の根拠を示す研究を展開させていくことができる.

 

筋収縮強度が二連発磁気刺激による抑制および促通に及ぼす影響

小島 翔1),菅原和広1,2),田巻弘之1,2),桐本 光1,2),鈴木 誠1,2),大西秀明1,2)

1)新潟医療福祉大学大学院

2)新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所

  • 目的;経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation: TMS)を利用して大脳皮質一次運動野を刺激すると運動誘発電位(Motor Evoked Potentials: MEP)が末梢の筋から記録される. 単発刺激によるMEP振幅値は中枢神経系の興奮状態により変動することが報告されており臨床の場において皮質脊髄路の評価として用いられている.近年,10ms以下の刺激間隔で磁気刺激を与える二連発磁気刺激によりMEP振幅値が抑制または促通されることが報告され(kujirai et al. 1993),皮質内ネットワーク機能を評価できるとして注目されている.しかし,これらの研究は安静時に行っているものが多く筋活動時の変化を報告したものは少ない.また,単発刺激に比べ二連発磁気刺激に関する研究は少なく基礎的データが乏しいのが現状である.そこで,二連発磁気刺激法による皮質興奮性の促通および抑制効果の生理学的機序を解明することを目標として,本研究では筋収縮強度が二連発磁気刺激による皮質脊髄路の抑制および促通に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした.
  • 方法;対象は健常男性8名(28.8±9.2歳)であった. MEPの計測には磁気刺激装置Magstim 200(8の字コイル)を使用した.刺激部位は左大脳皮質一次運動野手指領域とし,導出筋は右第一背側骨間筋とした.二連発磁気刺激強度は,条件刺激を軽度筋収縮時運動閾値(Active Motor Threshold: AMT)の0.8倍,試験刺激を安静時運動閾値(Resting Motor Threshold: RMT_1mV)とした.AMTは軽度随意筋収縮中に100μVを50%以上の確率で誘発される強度とし,RMTは安静時に1mVを50%以上の確率で誘発される強度とした.刺激間隔は0ms(single),3ms(Short-interval Intracortical Inhibition: SICI)と10ms(Intracortical Facilitation : ICF)とし,0.2Hzの頻度で各8回の磁気刺激を行った.運動課題は右示指外転等尺性運動とし,安静時および最大随意収縮(MVC)の10,30,50%収縮中に各刺激間隔で合計24回の二連発磁気刺激をランダムに与えた.MEP振幅値は,それぞれの筋収縮レベルにおいて各刺激間隔より得られた波形の最大と最小のものを除いた6波形を加算平均し,peak to peakで算出した.刺激間隔におけるMEP振幅値の比較は反復測定による一元配置分散分析を用い,有意水準は5%とした.
  • 説明と同意;本研究は新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得て実施した.また,すべての対象者には,本研究の目的や実験内容等について十分な説明を行い,書面にて参加の同意を得た.
  • 結果;本研究で用いた刺激強度は条件刺激で31.1±6.1%,試験刺激で56.6±8.8%であった.安静時におけるMEP振幅値は1.00±0.26mV(single),0.65±0.15mV(SICI),1.44±0.57mV(ICF)でありsingleに比べてSICIでは有意に低下し,ICFでは有意に増加した(p<0.05).また10%,30%MVC時でもそれぞれsingleに比べてSICIでは有意に低下し,ICFでは有意に増加した(p<0.05).50%MVC時のMEP振幅値は9.10±2.84mV(single),8.50±2.50mV(SICI),9.15±2.69mV(ICF)でありsingleに比べてSICIでは有意に低下したもののICFでは有意な差は認められなかった.
  • 考察;本研究において10%,30%MVC中のMEP振幅値は安静時と同様にSICIで抑制されICFで促通された.一方,50%MVC中ではSICIで抑制されるもののICFでの促通は認められなかった.単発刺激を用いた研究では,収縮強度の増加に伴ったMEP振幅値の増大が50%MVCまで認められるものの,それ以上の収縮強度で変化は認められなかったと報告されている(Muellbacher et al. 2000).本研究において10%,30%MVC時に比べ 50%MVC時では,筋収縮により多くの運動単位が動員されており皮質脊髄路の興奮性が高い状態のため二連発磁気刺激による促通が起こらなかったと考えられる.このことから50%MVC以上の皮質脊髄路の興奮性が高い状態では,二連発磁気刺激による促通は起こりにくいことが示唆された.
  • 理学療法学研究としての意義;二連発磁気刺激法による生理学的機序を解明することは,二連発磁気刺激を皮質脊髄の評価として臨床応用するための基礎的データの提供になると考えられる.

 

近赤外分光法での脳活動計測における血圧変動の影響

椿 淳裕1,2,古沢アドリアネ明美1,小島翔2,3,菅原和広1,2,大西秀明1,2

1)新潟医療福祉大学医療技術学部理学療法学科

2)新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所

3)新潟医療福祉大学大学院

  • 目的;リハビリテーションの分野では,非侵襲的で時間分解能に優れた近赤外線分光法(NIRS)を用いた粗大運動時の脳活動を計測する研究が行われている.この方法は,近赤外線光に対する吸光度の違いによる酸素化ヘモグロビン(O<SUB>2</SUB>Hb)と脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化量によって脳活動を測定するものである.脳の神経活動をほぼリアルタイムに長時間の連続測定が可能であることから,脳卒中後遺症患者の歩行中の脳活動やリハビリテーション介入の効果について多くの報告がある.一方で,NIRSでは頭蓋外から照射された近赤外線光を頭皮上の受光部で検出するため,負荷する脳賦活刺激の種類によっては,心拍や呼吸及び血圧などの変化に伴う全身的な血流変化が刺激に同期して起こることが報告されている.安静時にはほぼ一定に保たれている心拍や血圧などは,運動時には,セントラルコマンドや動脈圧受容器反射あるいは活動筋からの反射調節により変動を来す.特に静的運動時には末梢血管抵抗の増加も加わり,血圧及び心拍は著しく上昇する.また息こらえのみによっても,自律神経を介した血圧変動が短時間で起こる.すなわち,運動中の脳活動の計測においては,これらの全身的な血行動態の変化が経頭蓋的に計測されたO<SUB>2</SUB>Hbの変化の大きさに影響を与えている可能性が考えられる.したがって,NIRSにおける脳の神経活動の計測を行う場合,血行動態の変化との関係を明らかにしておく必要があるが,十分に解明されてはいない.本研究の目的は,血圧の変動とNIRSによって計測される信号との関係を明らかにすることである.
  • 方法;対象は,神経学的疾患や心疾患を有さない健常成人7名とした.課題動作は,自律神経の反射を介して短時間に血圧の変動を生じさせることのできる息こらえとし,20秒間実施した.連続血圧・血行動態測定装置(Finometer,Finapress Medical Systems社)を左第III指に装着し,beat by beatにて平均血圧(MAP)を計測した.また前額部には表皮血流測定装置(OMEGAFLOW FLO-CI,OMEGAWAVE社)を装着し,前額部より頭皮血流(SBF)を計測した.脳酸素モニタ(OMM-3000,島津製作所)を使用し,国際10-20法によるCzを基準として,送光プローブと受光プローブを配置し,2条件での測定を行った.[条件1]送光プローブと受光プローブを30mm間隔で配置し,全36チャネルで経時的にO<SUB>2</SUB>Hbを計測した.全チャネルの平均を算出し,ピアソンの相関係数によってMAPおよびSBFとの相関関係の強さを求めた.[条件2] 30mm間隔でプローブを配置した深部34チャネルに,15mm間隔でのプローブ配置により浅部の測定が可能とされる9チャネルを加え,測定を行った.深部34チャネルの平均(deepO<SUB>2</SUB>Hb),浅部9チャネルの平均(shallowO<SUB>2</SUB>Hb)を算出し,deepO<SUB>2</SUB>HbとshallowO<SUB>2</SUB>Hbとの差(diffO<SUB>2</SUB>Hb)を求めた.これらとMAPおよびSBFとの相関関係の強さをピアソンの相関係数によって求めた.いずれの条件においても,有意水準は5%とした.
  • 説明と同意;本研究は,新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号17157-100203).また対象者には本研究の目的や方法等について十分な説明を行い,書面にて参加の同意を得た.
  • 結果;条件1では,各測定項目間の相関関係において,MAPとO<SUB>2</SUB>Hbとの間に相関係数0.61~0.82の有意な正の相関関係を認めた(p<0.01).一方,SBFとO<SUB>2</SUB>Hb(相関係数0.14~0.88),SBFとMAP(相関係数-0.08~0.52)の相関関係には,被検者間のばらつきが大きかった.条件2では,MAPとdeepO<SUB>2</SUB>Hb,shallowO<SUB>2</SUB>Hb,diffO<SUB>2</SUB>Hbとの間の相関係数は,それぞれ0.64~0.88(p<0.01),0.64~0.89(p<0.01),0.45~0.67(p<0.01)であった.
  • 考察;これまでの報告により,運動時のNIRS信号には,血圧上昇や体温上昇による頭皮血流の増加が含まれている可能性がある.今回実施した息こらえは,体温上昇をもたらす課題ではないため,運動中の体温調節を目的とした頭皮血流の増加は生じない.この課題中のO<SUB>2</SUB>HbとMAPとの間の相関関係から,息こらえ課題中の血圧変動はNIRS信号に影響を及ぼすことが考えられた.MAPとの相関はdeepO<SUB>2</SUB>Hb よりもdiffO<SUB>2</SUB>Hbで弱く,shallowO<SUB>2</SUB>Hbを減じることで血圧変動をある程度除外した皮質活動を測定できる可能性が示された.
  • 理学療法学研究としての意義;理学療法実施中の脳活動を,NIRSを用いて明らかにしようとする場合,血圧変動が測定結果に影響している可能性が示された.本研究は,血圧変動の影響を受けないより純粋な脳活動の計測へと発展させるための基礎的な研究であり,脳活動も含めた理学療法手段の根拠を示す研究へと展開させていくことができる.

能動的触覚にかかわる脳活動について

大西秀明1),菅原和広1),大山峰生1),相馬俊雄1),桐本光1),田巻弘之1),村上博淳2),亀山茂樹2)

1)新潟医療福祉大学 医療技術学部理学療法学科

2)国立病院機構西新潟中央病院脳神経外科

  • はじめに;自発運動時の脳活動を脳磁界計測装置で計測すると「運動関連脳磁界」波形が観察される.この波形は3つの著明な振幅から構成され,それぞれ「運動磁界」,「運動誘発磁界第一成分(Movement Evoked Magnetic field 1; MEF1)」,「運動誘発磁界第二成分(MEF2)」とよばれ多くの報告がある.また,体性感覚刺激時に導出される「体性感覚誘発磁界」に関する報告も多々あるが,動作を伴う能動的な触覚刺激時における脳活動についての報告は極めて少ないのが現状である.そこで,本研究では能動的触覚にかかわる神経基盤の一部を解明することを目的とした.
  • 方法;対象は健常成人男性7名(28.7±8.7歳)であった.脳活動の計測には306ch脳磁界計測装置(Vectorview,Neuromag)を利用し,運動に伴う「運動関連脳磁界」を計測した.課題動作は右示指屈曲運動とし,示指先端指腹部をアクリル板上に接触させた状態から示指近位指節間関節を屈曲してアクリル板を擦る動作とした.アクリル板は,表面が滑らかなアクリル板と,幅2mm・高さ0.7mmの突起12個を1mm間隔で付着させたザラザラしたアクリル板の2種類を使用した.課題動作は5秒間に1回程度の頻度で40回以上行い,示指屈曲運動開始を基準として加算平均処理を行った.誘発された磁界波形は1Hzから50Hzのバンドパス処理を行い,MEF1とMEF2のピーク潜時と電流発生源(Equivalent current dipole:ECD)および電流強度を算出した.
  • 説明と同意;本実験を実施するにあたり新潟医療福祉大学倫理委員会にて承認を得た.また,被験者には書面および口頭にて実験内容を説明し実験参加の同意を得た.
  • 結果;2種類のアクリル板のどちらを使用した際も,運動に伴う「MEF1」「MEF2」ともに明確に記録することができた.MEF1のピーク潜時をみると滑らかなアクリル板を使用した際には33.6±9.2 msであり,ザラザラしたアクリル板を使用した際には38.6±16.9 msであった(P>0.05).MEF1における電流強度は滑らかなアクリル板では24.5±5.6 nAmであり,ザラザラしたアクリル板では28.3±8.4 nAmであった(P>0.05).MEF2のピーク潜時は,滑らかなアクリル板を使用した際には178.6±24.2 msであり,ザラザラしたアクリル板を使用した場合(179.3±27.9 ms)であった(P>0.05).一方,MEF2の電流強度については,滑らかなアクリル板では13.1±4.7 nAmであり,ザラザラしたアクリル板を使用した場合(19.96±4.5 nAm)に比べて有意に小さい値を示した(P<0.05).ECDはいずれも一次体性感覚野近傍に推定された.
  • 考察;運動直後に観察される「MEF 1」は運動開始後約40msで観察される波形であり,筋紡錘の活動を反映し,電流発生源は一次運動野と考えられている(Onishi et al. Clinical Neurophysiology 2011).本実験では,どちらの課題遂行時においても運動開始後約40msで観察され,過去の報告と同様であった.一方,我々の先行研究では,手指を動かさずに示指先端に接触したアクリル板が他動的に動くような動的触覚刺激を行った場合,触覚覚刺激後約40msで著明な振幅が検出でき,表面が滑らかな条件とザラザラの条件で潜時および振幅ともに差が認められないことが明らかになっている(日本生体磁気学会誌,2011).これらのことから,本実験におけるMEF1には,筋紡錘による入力と皮膚表在感覚からの入力がともに含まれているものと考えられるが,MEF1に対する表在感覚からの入力は触覚刺激の種類に影響されないことが明らかとなった.
    MEF2は示指伸展運動の場合には運動開始後約170ms後に認められると報告されているが,本実験においても同様に示指屈曲運動開始後約170ms後に観察され,ピーク潜時は触覚刺激の種類に影響されずに一定であった.しかし,MEF2の電流強度はザラザラした表面を擦った際に有意に大きな値を示し,MEF2が表在感覚刺激の種類に影響されて変動することが明らかとなった.このことは,MEF2が運動に伴う表在感覚を反映している可能性を示唆しており,能動的触覚機能に関与している成分と推察できる.
  • 理学療法学研究としての意義;理学療法領域において,運動障害や体性感覚障害を評価・治療の対象にすることは非常に多い.本研究は能動的な触覚刺激の神経基盤を解明しようとするものであり,将来的には運動障害や感覚障害の定量的な評価指標の開発に貢献できると考えられる.
  • 謝辞;本研究は,文部科学省科学研究費補助金基盤(B)および新潟医療福祉大学研究奨励金(発展的研究)の助成を受けて行われた.