聴覚皮質における変化検出の神経基盤の解明

(1)聴覚皮質における自動的皮質OFF反応について
ヒトの感覚系には生存のため,変化検出の神経基盤が存在すると推察される.変化検出の神経基盤が存在するとすれば,物理的な刺激の変化のみならず刺激の消失時にも変化検出の神経活動が起こると推察される.そこで本実験では異なる3つのON/OFF刺激を用いて聴覚誘発磁場(AEF)を記録した.一つ目の刺激は一定時間持続する純音(3~5秒)のON/OFF,二つ目の刺激はISI50msのトレイン音のON/OFF,3つ目の刺激はISI100msのトレイン音のON/OFF(図1).いづれの刺激も刺激の最初と最後にトリガーをかけた.

図1.純音刺激とトレイン刺激,実験パラダイム

図2Bに示すとおり,ON/OFFどちらの条件でも上側頭回付近に信号源が推定された.また,刺激のISIに依存してOFF反応が延長した(図2A).これは,聴覚皮質で次の刺激が来るタイミングを記憶していることによるものと推察された(Yamashiro et al., European Journal of Neuroscience 2009).

図2A,B.ON刺激とOFF刺激により誘発された波形とダイポール位置

(2)聴覚皮質の変化関連応答
(1)の実験結果から変化検出活動には前事象の記憶が重要であることが明らかになった.もし,前事象の記憶に基づき変化関連応答が誘発されるとすると前事象が長くなるにつれて,変化関連応答は大きくなると推察される.このことを調べるために3つの異なる変化刺激を用いて,聴覚皮質の変化関連応答について検討した.全ての変化に関して前事象(刺激の変化前の事象)を0.5,1.5,3,6秒に設定し,変化刺激を与えた.3つの変化は,silentな状態から1000Hzの音が500ms出るON条件,1000Hzの持続音が500ms消えるOFF条件,1000Hzの持続音が1100Hz に500ms変わるCHANGE条件とした(図1).


図1.3つの変化条件

いずれの条件でも上側頭回付近に信号源が推定され,全ての条件で振幅は前事象が長くなるにつれて増大した(図2).実験の結果,聴覚皮質には記憶に基づき変化を検出する神経基盤が存在することが明らかになった(Yamashiro et al., Psychophysiology 2011)

図2.ISIに依存する上側頭回の活動