人の健康を守るため、放射線を正確に測定する! - 医療を変える、理工学の学び

2019.07.22

人の健康を守るため、放射線を正確に測定する!

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放射線は、ものを通り抜ける性質や、ものの性質や状態を変える性質などをもっています。これらの性質を活かして、医療をはじめとするさまざまな分野で放射線が利用されており、私たちの暮らしに必要不可欠なものになっています。

放射線は体を通り抜ける!?

あ.png光は紙を通り抜けることはできますが、人の体を通り抜けることはできません。一方、放射線は人の体を通り抜けることができます。この性質を利用したものが、エックス線(X線)撮影やCT(コンピュータ断層撮影)などの体の異常を調べる画像診断検査です。X線撮影は、体にX線を照射し、体を通り抜けたX線を写真撮影して体の中の様子を調べるもので、代表的なものが健康診断でおなじみの胸部X線撮影(右写真)です。また、歯医者にいくと、まず X 線撮影で歯の状態を確認することが一般的になっています。

このように、医療分野で人の健康を守ることに役立っている放射線ですが、一方で健康障害を引き起こすリスクも持ち合わせています。

放射線はリスクとベネフィットを併せもつため正確な測定が必要!!

人間の体は細胞が集まってできています。細胞が放射線をあびると、放射線のものの性質や状態を変える性質により、細胞が傷ついてしまいます。一方、細胞には放射線などで作られた傷を治す力があるため、医療分野で使用されている量の放射線をあびる程度であれば細胞が傷ついても元通りに修復され、正常な細胞に戻ることができます。しかし、大量の放射線をあびると、自分の力で傷を元通りに治せなくなってしまい、異常な細胞となり、それが原因でガンなどの病気になることがあります。そのため、放射線利用にともなう健康障害が生じないように、あびる放射線の量をきっちりとコントロールすることが大切となってきます。放射線検査では、放射線のリスクより検査をして疾患を発見するというベネフィットのほうが大きい場合にのみ検査を行う(正当化)、また個々の患者に対して診断に支障が出ない範囲で放射線量の低減を図らなければならない(最適化)、とされています。

そこで、我々は、CTやマンモグラフィなどさまざまな撮影装置から照射される放射線の量を正確に測定するための方法についての研究を行っています。例えば、部屋の中のある場所にとんできた放射線の量を空間線量といいますが、病院などの施設におけるX線診療室の空間線量を正確に測定する方法について研究しています。

正確な測定を行うための「校正」

FireShot Screen Capture #263 - '' - repo_komazawa-u_ac_jp.png病院など放射線利用施設では、持ち運びが容易で短時間で測定が行える「サーベイメータ」(右写真)という放射線量測定器が空間線量の測定に有用です。また、「線量計」という放射線量測定器を用いて人体に対する被ばく線量を評価します。放射線の測定は、放射線量測定器の測定値の信頼性を保証することが重要です。これを達成する為に必要なのが「校正」です。

校正とは、測定器の読み(出力)と、入力または測定の対象となる値との関係を決定付ける作業のことを言います。線量計は、質量や長さの計量器とは異なり、微弱電流を測定するため外部の影響を受けやすく不安定であり、X線量もその絶対測定は非常に困難なものです。正確な線量測定を保証するには、定期的に校正された線量計を使わなければいけません。

放射線量測定器による測定値の信頼性を保証するため、校正場の構築を行っています(下図)。また、各種放射線量測定器の校正値の変動およびその変動要因などについても検討を進めています。

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 (日本規格協会編:JIS Z 4511 照射線量測定器及び線量当量測定器の校正方法,日本規格協会,2018.


放射線は、健康リスクがある一方で、医療分野では命を救うことに役立っています。放射線のメリットを最大限に活用していくためにも、正確な測定を目指していきたいと思います。




顔写真.png【研究者紹介】
新潟医療福祉大学 医療技術学部 診療放射線学科
講師 関本 道治
放射線計測・放射線防護や放射性医薬品を用いた核医学検査などの研究を行っています。

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