多くの人々を痛みから解放する、
鍼灸治療の研究と実践とは?
鍼灸健康学科/教授/久保 亜抄子
Department of Acupuncture and Moxibustion/Asako Kubo
頭痛・腰痛など痛みの原因解明と鎮痛のメカニズムについての研究
怖いと思って避けていた「鍼灸」。
効果を実感して鍼灸師の免許を取得し、研究者の道へ
高校生の頃から腰痛と肩こりに悩まされていた私は、30歳で初めて鍼灸に出会いました。最初は「鍼は痛そう」とか「本当に効くの?」と思っていたのですが、実際受けてみると、すごく楽になって「鍼って本当に効くんだ!」と感動したことを覚えています。それ以来、鍼灸に興味を持つようになりました。さらに「もっと多くの人に鍼灸が広まれば、痛みから解放されて健康的に暮らせる人が増えるのに」との思いから、鍼灸師の専門学校に通い始めました。当時は会社員だったのですが、自分一人でできる仕事という点にも魅力を感じました。一般的に鍼灸の治療では、まず症状を細かくヒアリングします。例えば「肩こり」を訴えて来院された患者さんの場合、本当に肩だけの問題なのかそれともほかにも原因があるのかを見極めるため、問診や触診を丁寧に行います。専門学校では鍼灸治療の知識や技術を学びましたが、鍼灸が「なぜ効くのか」というメカニズムについては、まだ解明されていない部分が多いことも知りました。そこで、鍼灸の痛みを和らげる効果を理解するためには、まず痛みについて知ることが必要だと考え、痛みの研究を始めることにしました。
“オキシトシン”は痛みを緩和する効果があることを発見。世界で注目される鍼灸の未来
現在は「痛みの原因」と「鎮痛」の2つのテーマを研究しています。過去の実験では、幸福感を感じるときに分泌される“オキシトシン”というホルモンが、痛みを和らげる働きを持つことを発見しました。この発見に至る過程では、痛みを再現した動物モデルを作り、オキシトシンを投与して効果を調べる実験を繰り返しました。研究では一つの仮説を検証するために、同じ実験を何度も繰り返します。その結果、たった一つでも新しい事実を発見したときは興奮し、特別な高揚感を味わうことができます。このような経験ができることが研究の魅力です。また、学会発表を通じて国内外の研究者と意見交換できるのはとても面白く、貴重な経験だと感じています。最近は、世界的にも鍼灸の効果が注目され、細胞や分子レベルでの鍼灸のメカニズムを解明する研究が進んでいる実感があります。基礎研究が進み、鍼灸が科学的に理解されることで、多くの人がその効果を実感できる社会になることを期待しています。