勝負どころで判断が鈍るのは
脳疲労のせいなのか?
健康スポーツ学科/講師/越智 元太
Department of Health and Sports/Genta Ochi
勝敗を分ける「脳のスタミナ」がミスとケガを防ぐ次世代の科学
トップアスリートが抱いた「脳が先に疲れる」謎への挑戦
私はかつてローイング(ボート)競技の選手としてアジア選手権に出場し、限界まで体を鍛える日々を送っていました。その中で強く感じたのは、「スポーツは筋力や持久力だけでは決まらない」という事実です。勝負どころで判断ミスをし、「なぜあの選択をしたのか」と悔やむ経験を重ねるうち、それは気合の問題ではなく、脳が疲れて正しい判断ができなくなる「認知疲労」が原因ではないかと考えるようになりました。体は動くのに頭が回らないという感覚の正体を、精神論ではなく科学で解き明かしたい。その思いが、脳の働きとスポーツパフォーマンスを研究する道へ進む原点となりました。
選手の安全と最高のパフォーマンスを支える脳科学
この研究は、選手のパフォーマンスを維持すると同時に、重大なケガから守ることにもつながります。脳が疲労すると、危険な動きを止める抑制機能が低下し、事故のリスクが高まることが分かっています。しかも脳の疲れは自覚しにくく、「まだ動ける」という感覚と実際の状態にズレが生じます。そこで、表情や動作の変化から脳の疲労を見抜くサインや、試合中に脳を素早く回復させる方法を科学的に検証してきました。これらの知見は、選手交代の判断や集中力回復の指針となり、勝利と安全を両立させる実践的な支援技術として現場で活用されていきます。
見えない脳の状態をデータで読み解く研究の面白さ
この研究の醍醐味は、目に見えない「脳のコンディション」を数値で捉え、スポーツの常識を塗り替えられる点にあります。激しい運動や低酸素環境では、脳への酸素供給が減少し、判断力が鈍ることが明らかになりました。これまで「やる気がない」と片付けられていたミスが、実は脳の酸欠という生理的現象だったのです。原因が分かれば、適切な対策が立てられます。選手の感覚をデータで裏付け、新たな事実を見つけていく過程には、数多くの発見があります。研究成果が賢いプレーや選手の安全につながる瞬間こそが、この分野ならではの最大の魅力です。