子育てと仕事が両立できる社会は
実現できるのか?
看護学科/准教授/和田 直子
Department of Nursing/Naoko Wada
女性が子育てと仕事を両立するために必要な要素や、それを支える産業看護職に関する研究
産業看護職として働き、自らが“働くお母さん”になって気付いた社会の課題
私が研究者を志したきっかけは、大学卒業後に8年間勤めた産業看護職の経験にあります。企業の医務室で働きながら社員の健康管理を行う中で、女性社員から妊娠や子育てに関する相談を多く受けました。しかし、当時の私は子育て経験がなく、大学や研修で学んだ知識を頼りに対応するしかありませんでした。その後、大学に着任し、自らも出産を経験。育児と仕事を両立する大変さを実感し、産業看護職時代を振り返る中で「働く母親をもっと支援したい」と強く思うようになりました。こうして、このテーマを深く研究する決意を固めました。2016年から現在に至るまで、子育てと仕事を両立する女性と、それを支える産業看護職を対象に研究を続けています。例えば、「未就学児を抱えながら働く女性の健康リスク」や「子育て中の女性労働者の生活習慣」に関する研究成果を発表しました。研究を通じて、「仕事を諦めるつもりだったが、もう少し頑張ってみようと思えた」「自分だけが苦労しているわけではないと安心した」といった声をいただくこともあります。研究成果だけでなく、働く母親や産業看護職の工夫や苦労を共有することも、支援の一環になると実感しています。
両立する力の育成と、周囲が快く協力できる環境づくりを目指して
子育てと仕事を両立する女性を対象に、両立の力をどのように認識しているかを調査しました。その結果、希望する両立の姿が実現している女性たちは関係構築力や健康管理力、諦める力など9つの力を持ち、周囲の協力を得ながら前進する力、優先順位の低いものを諦める柔軟性が共通していることが分かりました。この結果をもとに、両立を成功させる要素を整理し、女性自身の力を育む支援を進めたいと考えています。また、健康状態の調査では、両立する女性は同年代の一般女性よりも痩せている割合が高く、貧血傾向も強いことが明らかになりました。今後はその意味を詳しく分析していきます。一方、産業看護職の調査では、「会社の制度やジェンダー意識の課題」に加え、「両立する女性を支える同僚の疲弊」という新たな課題も浮かび上がりました。社会的に働く女性を支援する流れがある一方で、周囲は自らの負担を主張しづらい状況に置かれている可能性があります。子育てと仕事を両立できる社会の実現には、本人だけでなく、周囲が快く協力できる環境づくりが重要です。今後は“フォローする側”の支援にも焦点を当て、より包括的な両立支援の研究を進めていきます。