日常生活への復帰をサポートするための、
認知機能そのものの改善とは?
作業療法学科/助教/安中 裕紀
Department of Occupational Therapy/Hiroki Annaka
認知機能の改善に向けたリハビリテーション手法の開発および研究
身体や心に障がいを持っていても、誰もが自分らしい生活を送れるように手助けをしたい
私は作業療法士として約10年間、臨床現場で働いていました。作業療法士とは、身体や心に障がいを持つ方が社会生活に復帰できるようリハビリテーションを行う専門職です。高齢者の記憶力低下を予防したり、子どもの発達支援や精神疾患のある方の社会復帰支援など、幅広い年齢層の方と関わる仕事です。作業療法士として働く中で、認知機能の問題によって望み通りの生活を送ることが難しい患者さんに数多く出会いました。認知機能とは、記憶力、思考力、判断力など、日常生活を送る上で必要な思考プロセスのこと。当時、認知機能を補うためのリハビリ手法はありましたが、認知機能そのものを改善する方法については十分に普及していない状況でした。こうした経験から、私は一人でも多くの患者さんが自分らしい生活を送れるよう、認知機能そのものを改善するリハビリテーションの開発を志すようになりました。私が専門としていたのは、主にてんかんの患者さんのリハビリテーション。症状の重さから生活に悩む患者さんも多くいらっしゃいましたが、認知機能を改善することで彼らの人生が変わっていく姿を目にすると、大きな喜びとやりがいを感じました。
VRを活用し、患者さんの負荷を軽減。
リハビリをゲーム感覚の楽しいものに変え、やる気を引き出す
現在は、「VRを用いたゲーム」と「経皮的迷走神経刺激」が脳活動や認知機能に及ぼす効果について、脳波計を用いて検証を行っています。VRを用いたゲームは、認知機能の改善を目指したリハビリテーションをゲーム感覚で楽しく行える技術です。患者さんのやる気を引き出し、リハビリテーションに対する苦手意識も軽減できると期待しています。経皮的迷走神経刺激とは、耳から微弱な電気を流して迷走神経を刺激する治療法です。この方法は、てんかんや不眠症、さらには脳卒中後のリハビリテーションなど、さまざまな疾患の治療に効果が期待されています。研究過程では、研究者自身の「問題解決能力」を養うことができます。「この方法がうまくいかないなら、別の方法を試してみよう」「この症状に効果があるなら、別の症状にも応用できるのではないか」―自分の頭で考え、可能性を広げていく試行錯誤の時間は、非常に意義深いものです。そうして積み重ねた4年間は、皆さんの生きる力となり、未来の糧になるでしょう。